Vol.303発達障害を考える②
未来への贈り物としての支援教育

2026.10

 今回は、発達障害児への支援教育について考えてみたいと思います。2007年に開始された特別支援教育では、支援が必要な児童生徒が存在していれば、通常の学級においても支援教育を行うことになりました。知的障害がないため発達障害児は、基本的には通常の学級に在籍しています。しかし、得意なことと苦手なことの差異が大きく、一斉指導や集団活動に適応することが難しいため、通常の学級での学校生活は、発達障害児(診断の有無を問わず)にとって大きな負担となることが多いものです。

 通常の学級において、個々のニーズに即した教育支援を受けられることは、発達障害児にとって大いに助けとなるはずですが、個別の指導計画を立案し実行することは、教員にとって容易なことではありません。発達障害児の困難さはそれぞれ異なるため、それらに対応するだけの知識や指導スキルが必要になり、通級による指導や心理職等との連携が不可欠になります。また、学級担任が対応しなければならないことは多岐にわたるため、要支援児の指導に注力したくても、存分に時間とエネルギーを割くことができないという問題もあるでしょう。

 このような状況では、闇雲に支援にあたるのではなく、力点をどこに置くかを吟味する必要があります。発達障害児の支援教育においては、困難さへの対応のノウハウを指導するだけでなく、本人の自己理解を深めることが肝要だと思います。近年、文部科学省は「チーム学校」を謳って、校内委員会の設置や多職種連携のもと、特定の教員が抱え込むことなくチーム体制で支援を展開することを提案しています。この考え方に基づく支援システム作りには、大いに賛成するところですが、大人ばかりが手を繋ぎ、チームの輪から当事者である子どもが外れてしまっては意味がありません。子どもが、自身の日常をふりかえり、どのような場面でどのような困難に直面するのか、うまくいかなかった原因は何なのかを支援者とともに探り、自己理解を深めることが重要です。子どもの年齢や能力を考慮しなければなりませんが、支援チームの輪の中に子どもも加わり、自身の苦手さへの対策や得意な領域の伸長に能動的に関わっていけるよう育てていくことが大切です。

 ここでひとつエピソードをご紹介しましょう。以前、小学校の通級指導教室の顧問をしていた際にある4年生の男子と出会いました。仮にAさんと呼ぶことにします。Aさんは、授業に集中できなかったり、忘れ物が多かったり様々な課題を抱えていました。忘れ物の多さについてAさんと話した時、どうして忘れ物をすることが多いか尋ねてみました。Aさんは、先生に促されて持ち物を連絡帳に書き留めてはいるものの、帰宅してから連絡帳を開かないので忘れてしまうのだと言いました。では、なぜ連絡帳を開かないのかを聞いてみると、連絡帳を開くには、①ランドセルを開けて②連絡袋を出し③連絡袋から連絡帳を出し④連絡帳のページを開くという手順が必要で、それを考えると億劫になってしまうこと、仮に連絡帳まで到達してもそこから持ち物を準備する過程で他に気が散ってしまうことなどを教えてくれました。講じている対策がAさんに合わず効果につながっていない様子でした。そこで、Aさんと忘れ物対策を一緒に考えました。億劫になっている原因は、持ち物についての情報にアクセスするまでの手順が多いためと考え、連絡帳に書く方法から、書きやすいフォーマットの用紙を用意し、そこに持ち物や宿題などの覚えておくべき情報を記入してランドセルの蓋の裏側のポケットに入れ、帰宅してから蓋をめくるだけで情報が目に入るような方法に変更しました。自分も関わって立てた対策ですので意識づけが成され、Aさんの忘れ物は少しずつ減っていきました。この対策を一緒に考えた際、負荷の軽減だけでなく何を優先するか(この場合は、他児と同じように連絡帳を使いこなせるようになることではなく、翌日に忘れ物をすることなく授業に臨めることを重視する)も話し合いました。その中で、他児と同じ方法を唯一の道とするのではなく、目的に到達するための自分に合った方法を考え、それを身につけるよう努めること、活動参加に際してのバリアを自分なりの方法で取り除くことの大切さを確認しました。支援者は、その子どもの人生の一時期にしか関わることができません。日々の指導や支援を通して子どもの自己理解が深まり、子どもが長い人生において自分の特性との上手な付き合い方を知ることができれば、それは支援者から子どもの未来への何よりの贈り物になるのではないかと思います。

東京学芸大学
学生支援センター/教職大学院
小林 玄
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