Vol.196ソーシャル・キャピタルと教育 3

2020.09

 ある雨の日に、ある中学校の校長先生や地域のコーディネーターさんと話した時のことです。校長先生に対し、これからの学校と地域のあり方についてお尋ねしたところ、にこやかに次のことをお話しされました。「この学校の子どもはたくさんの地域の人々に支えられています。いつか今度は、学校や子どもが地域の人々にお返しができたらと思っています。」*

 学校と地域の人々がソーシャル・キャピタルを豊かにもつためになくてはならない存在が、子どもです。地域のソーシャル・キャピタルの一つとして、近年、子どもを通じたつながりである子縁(鈴木・日野・中村, 2016)が注目されています。鈴木他(2016)は、子縁がある人は、生活上の出来事について相談し合うことや、地域の課題解決に対する責任を感じていることを報告しています。つまり、子どもを通じたつながりが、地域の人々のソーシャル・キャピタルを豊かにしているのかもしれません。

 それでは、学校と地域の人々の間では、どのようにソーシャル・キャピタルを醸成していけば良いのでしょうか。そこでもやはり、子縁が重要になるでしょう。たとえば、学校の先生らは子どもの元気に関心を示しますが、子縁がある地域の人々も同様です。鈴木他(2016)は、子縁がある地域の人々はより元気になる可能性を報告しています。また、中谷内(2015)は、能力や人柄、そして共通した価値観の理解により、信頼が生まれることを説明しています。そのため、学校と地域の人々がお互いのことを知り、いずれもが『子どものためになる』と認め合うことで、両者間のソーシャル・キャピタルは形成されると考えられます。

 一方、つながり(縁)と関連する言葉に、支援と協働があります。地域のコーディネーターさんは話しました。「支援という言葉は、学校に提案する時に用いやすかったのですが、協働となるとこれは伝わりにくいのです。」* と。なぜでしょうか。支援は『与える人』と『受け取る人』から成る一方、協働はどちらも『協力する人』になります。学校の人の気持ちを考えれば、支援を『受け取る』ことより協働に『協力する』ことの方が大変かもしれず、地域の人としても学校の人に協働を求めにくいのかもしれません。先の理論から考えると、学校と地域の人々の間のソーシャル・キャピタルの醸成および協働を達成するためには、『子どものためになる』ことについて話し合い、お互いの考えを認め合うことが重要であると考えられます。

 今までみてきたように、学校と地域の協働とソーシャル・キャピタルの醸成のためには、子縁が鍵となるかもしれません。私たちは、子どもの親であってもなくても、地域の何らかのコミュニティの場であれば子縁をつくることができます。したがって、今後は衰退しているとされる地域のコミュニティの場を、新たな形でどのように創出するかが重要になってくるのではないでしょうか。

*ある校長先生とコーディネーターさんのインタビューをもとに、一部を変更の上執筆しました。

[引用文献]
中谷地一也(2015). 信頼学の教室 講談社現代新書
鈴木 雄・日野 智・中村光太郎(2016). 子縁による地域コミュニティー醸成の可能性に関する研究 土木学会論文集D3, 72, 461-471.

日本大学文理学部人文科学研究所
研究員 芳賀道匡
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