前々回、前回とご紹介させて頂いた地理学習における地域構造図としてのまとめ方は、日常生活でも活用でき、観光などで初めて地域を訪れる際にも有効です。観光の際に情報を羅列的に収集するよりも、それらの情報が関連し繋がった方が楽しく感じますし、前回触れた動態地誌的なとらえ方で多くの情報と関わる中核的な要素を見出せれば、地域の物語を感じて旅が2倍楽しくなります。今回は、私もほとんど知識がなかった長崎と神戸について、来訪後に描いた地域構造図を紹介します。
【長崎:外国文化・造船・夜景の背後にある要素】
長崎といえば、例えば重要伝統的建築物群保存地区(重伝建)でもある外国人居留地やキリスト教関連施設、カステラなどが観光資源として知られており、これらは長崎が鎖国下の江戸時代に数少ない外国への窓口であったことが成立の背景といえます。また造船業が盛んで、近年は夜景が評価され、原爆投下地としても世界的に知られています。商業地を研究する私は、地方都市の中では比較的人通りが多い中心市街地に注目します。
これらは、図1に示した通り、実はいずれも「すり鉢状」と呼ばれる地形の影響を大きく受けています。

このように長崎の諸々の事象は、それぞれバラバラに生じてきたのではなく、地形の影響を受けてきたことに気づきます。長崎を訪れたのは一度きりですが、ひとつひとつの情報に触れた際、図1に描いたような動態地誌的な地域構造図のイメージが沸き、長崎という地域の物語を感じながら、楽しく歩くことができました。
【神戸:ハイカラの関係構造】
神戸といえば洋食、洋菓子、パン、神戸牛などの食文化や異人館がまず思い浮かびます。書籍やインターネットからこれらのハイカラな要素が定着した背景を調べると、江戸末期に幕府が諸外国と結んだ安政の修好通商条約の際に港が開かれたことや、これにより早くから外国人が集まったこと、多くの日本人富裕層が居住したことが成立の背景としてあげられます。さらに、この地に港が開かれたのは海の深さや風避けになること、多くの外国人や日本人富裕層が住んだのは海に近い高台が好まれたことなど、六甲山地を中心とした地形条件が土台にあることが分かりました。これらのことをハイカラの関係構造図としてまとめた図2をみると、六甲山地という地形条件が、外国貿易・外国人・日本人富裕層をもたらし、それらが観光資源でもある神戸のハイカラな魅力をもたらしていることが分かります。

どの地域にも様々な特徴がありますが、長崎も神戸も、地域の多くの事象に通底する要素は地形でした。これは偶然かもしれませんが、地理学習で地形の単元を早い段階で扱うのはこれが世界や地域の土台になるためでもあり、単なる偶然ではないかもしれません。いずれにせよ、地域の諸要素の関係性を考えることや、諸要素に通底する中核的な要素を発見する行為は、基本的かつ高度な「地理的な見方・考え方」です。あらゆる場面でこの見方・考え方ができれば、目にする光景に意味が生じるために日常生活が面白く豊かになり、人生を2倍楽しむことができるでしょう。