Vol.059ノンバーバルを見つめなおす①ノンバーバルは”ノン”バーバル

2016.12

 ノンバーバルコミュニケーションがジェスチャーや表情など、”言葉によらない情報伝達”を指すということをご存知でしょうか?また、みなさんの周りにあふれているコミュニケーションのほとんどが、ノンバーバルを中心に行われていることはご存知ですか?これから3回にわたって、そのような”ノンバーバルコミュニケーション”について簡単ではありますが、お伝えしていければと思っています。

 さて早速ですが、自分と相手、という2者間の会話においてノンバーバルがどれくらいの情報を伝えているか知っていますか? レイ・バードウィステル(1970)という研究者によれば65%、アルバート・メラビアン(1967)という研究者によれば93%もの情報伝達がノンバーバルによって行われていると報告されています。数値の差があるとはいえ、いずれにしても言葉よりもたくさんの情報がノンバーバルによって伝達されている、と考えることができますね。例えば「明日は晴れらしいよ」という内容だったとしても、その言い方が暗かったらあまり良くないニュアンスにもなりますし、笑顔満点で言われたら”晴れだからお出かけができる”というポジティブな要素にもなりえます。つまり、実は私たちは、話される内容そのものもそうですが、話し手が発している全身の表現を頼りに1つの情報を受け取っている、と言えるでしょう。

 そのなかでも、対人コミュニケーションにおいて最も多くの情報を伝えているのは”顔の表情”だそうです。それは伝達される情報量全体の55%程度を担うとも言われています。

59_pic_01  これは3歳のS君が描いた絵になりますが、頭が大きく描かれていることを見て取れると思います。乳幼児期は感情の多くを表情など人の顔から学びとるため、人の絵を描く際には普段よく見ている”顔”が大きく描かれる傾向にあるそうです。また、幼児のみならず私たちにも「顔色をうかがう」という言葉がある通り、対人コミュニケーションにおいて”顔”はとても重要な役割を果たしていると考えられます。

59_pic_02  少し話題を広げると、音楽やダンス、絵画などもノンバーバルを拠り所とした伝達手段の良例だと思います。そこに言葉がないとしても、J. シュトラウス2世の歌劇『こうもり』「序曲」を聴いていると心が躍りますし、生で見るダンスパフォーマンスの迫力や人間の内から発せられるエネルギーからは何とも言えない感動を味わうことができます。J. フェルメールの絵が語りかけてくれる表情も筆舌しがたいものがありますよね。確かに私たちはノンバーバルと共に生きて、ノンバーバルを文化としても楽しんでいる、と言えます。

 こうして見ていくと、ノンバーバルは対人コミュニケーションを成立させるための非常に重要な要素であると同時に、言葉がなくても伝えあえる人間の不思議な能力を考えさせてくれます。普段の生活の中でノンバーバルに目を向けると、もしかすると新しい情報が見えてくるかもしれません。ほんの少し、いつもより細かくコミュニケーションに注目してみてはどうでしょうか?

NPO法人東京学芸大こども未来研究所研究員
小田直弥
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