不安定・不確実・複雑・曖昧な課題に今後日本が直面していくとして、課題に直面した後で「次世代教育」を作るのでは、対応が後手に回ってしまいます。後手に回ることで、子どもは課題に対応しきれていないカリキュラムの中で学ばざるを得ません。また、教育を課題に対応させた頃には、新たな課題が生じてしまっているかもしれません。
「教育が後手に回ってしまう」問題に対して、課題が生じてから教育改革を急激に進めるという対策も考えられますが、急すぎる変化は現場に混乱をもたらす危険性があります。そのため、適切な対策は「時代を先取りした教育」を徐々に開発・定着させていくということになるでしょう。
子どもたちに必要となる「時代を先取りした教育」とは、これからの時代を踏まえ、「不安定・不確実・複雑・曖昧な課題に対処可能な資質・能力を育成できる教育」であるといえます。そのような教育として、現在国際的に検討されているのは、一人の子どもの中で、複数の資質・能力を総合的に育成できる教育です。
たとえば、OECDが挙げている2030年において求められる資質・能力の要素は、2015年12月時点で、Knowledge、Skills(cognitive and social)、Emotional Qualities、Well-Being、Meta Competencies、Actionとなっています(図1)。それぞれ、知識、スキル(認知的・社会的)、情意特性、ウェル・ビーイング、メタ認知に関するコンピテンシー、(子どもの主体的な)行動として暫定的に訳せます。
図1.OECDによる暫定的な育成すべき資質・能力の概念図(第18回OECD/Japanセミナー日本語資料 基調講演1より)
一方、CCRによれば、21世紀の教育の要素として、Knowledge、Skills、Character、Meta-Learningが挙げられています。
※CCR:「21世紀に生徒は何を学ぶべきか」に関して教育の改善を目指す、国際的なNPOであり、正式名称はThe Center for Curriculum Redesign。
CCRの枠組みは、文部科学省による学習指導要領改定のための論点整理の中で、読み替えが行われています。それぞれ、Knowledge(何を知っているか)が「個別の知識・技能」、Skills(知っていることをどう使うか)が「思考力・判断力・表現力等」、Character(社会の中でどのように関わっていくか)とMeta-Learning(どのように省察し学ぶか)が「主体性・多様性・協働性・学びに向かう力・人間性など」として日本の学校教育に対応するとされています(図2)。
論点整理では、育成すべき資質・能力の「三つの柱」として、これらが繰り返し記述されています。
図2.カリキュラム・デザインのための概念と、「学力の三要素」の重なり (教育課程企画特別部会における論点整理について(報告)の補足資料(4)より)
東京学芸大学次世代教育研究推進機構講師
柄本 健太郎
pdfをダウンロードできます!