私は、以前、小中学校の教員として勤務しておりました。今でも、年に何回か、飛び込みで体育授業を行わせていただくことがあります。初めて会ったこども達と授業を行い、それを学校の先生方に参観していただくわけですから、大変緊張してドキドキする反面、わくわくする気持ちも大きい貴重な時間です。
昨年末には、小学校1・2学年のゲーム領域で、「ボール投げゲーム」を行いました。投げるゲームの場を6つ準備し、それを時間でローテーションしながら行います。その際取り入れた教材は、他の大学の先生からご教示いただいたものや、学校現場の実践からヒントを得たものです。このなかで、特にこども達が飛び跳ねて喜んだのは、「坂道ボール投げ」でした(図①)。体育館のギャラリーからブルーシートを垂らし、バレーボールの支柱とつないで坂道をつくり、そこにボールを投げるのです。こども達は、投げたボールがどこに落ちて戻ってくるのか待ちきれない様子で、飛び跳ねてボールの行方を追っていました。そして、「もっとやってみたい!」の気持ちを、それこそ体で表現しながらゲームを楽しんでいました。これは、私が子どものころ、家の屋根の上にボールを投げ、どこから落ちてくるかわからず、わくわくしながら、ボールをキャッチしていた遊びそのものです。そのわくわく感が、もっと投げて遊びたいと、こども達の心に響いたのではないかと思っています。
Vison126に、昭和60年ごろと比較するとまだ体力が低い傾向にあるということを紹介しましたが、なかでも、体力テストの項目で数値の開きが顕著なのがボール投げです。これについては、投げる経験の不足が指摘されています。考えてみれば、一昔前の特に男子の遊びの中心は、野球(ボール投げ)でした。現在は、こども達が行う遊びや運動が多様化するとともに、キャッチボールを禁止するような公園も見られるなど、環境的にも投げるという経験が不足している状況にあるといえるでしょう。そういった背景も踏まえ、新学習指導要領には「投の運動(遊び)」を加えて指導しても良いことが盛り込まれました。これにより、様々な授業実践が行われていくことは、大変望ましいことだと考えますが、その反面、遠くへ投げることだけを目的として指導が行われていかないかという心配もあります。特に、低学年では、「やってみたい!」とこども達が目を輝かせて取り組む運動遊びの提供が必要だと考えます。それが、投げることは楽しい、もっと投げてみたい、いろいろな投げ方をしてみたいと気持ちが高まり、体力の向上へつながっていくと考えます。ぜひ、こども達の目が輝くような場や教材の提供を期待したいものです。