Vol.255自身の教師観・教育観のアップデート~越境学習とアンラーニングを通して~

2023.11

 みなさん越境学習やアンラーニングという言葉をご存じでしょうか。私は大学院に来て初めてこれらの言葉を知ったのですが、どちらも自分自身の教師観・教育観をアップデートするためには必要な要素であると最近つくづく感じています。

 越境学習とは、個人が心理的に居心地の良いと感じる慣れた場所(ホーム)と、居心地が悪く変化や刺激を伴う場所(アウェイ)を行き来することで生じる違和感や葛藤によって、学習効果を得る方法のことを指します。つまりホームにとどまり続けることで熟練を目指すのではなく、アウェイに身を置き、自己や組織の固定観念を疑うことで視野を広げていく考え方といえます。

 一方、アンラーニングとは、無意識のレベルでパターン化された意思決定プロセスや価値観の硬直化を防ぐために、時代齟齬の可能性を有する個人や組織の知識や技能を意図的に使用停止して、新たな知識や技能を取り込むことを指します。

 越境学習によって得た新たな環境における違和感や葛藤を通して自分の既存の価値観をアップデートするためには、アンラーニングによって一度既存の価値観から一部脱却する必要があるというように、これらは相互に作用する関係値にあると考えられます。

 越境学習やアンラーニングが求められる理由としては、既存の価値観が硬直してしまっていることにありますが、教育現場においてはどのような価値観の硬直化が生じているのでしょうか。教師の視点から考えてみると、例えば、教え方・発問の仕方・板書術などの技法は無数に存在します。書店に行ってみると様々な流派の様々な授業技術の本が展開されていることからもわかります。しかし、それを分かっていても、教師は自身の経験則に頼った教育方法が全ての児童生徒に効果的であるはずだと錯覚し、それが自身の中で確固たる教育観となってしまうことがあります。研究授業を行って講師や指導主事から褒められた際には、「このやり方で間違いない!」と確信めいたものまで抱いてしまいます。自信を持つことは教師の仕事をしていくうえでとても大切なことですが、それ以外の方法を受け付けなくなってしまう傾向も見られます。この点に教師としての価値観の硬直化を見ることができます。

 私は今年で教職 18 年目になります。これまでの経験によって獲得した教師観・教育観も当然あります。そんな中、今年度、教職大学院への派遣が実現しました。同じ教育という分野になりますが、私にとっては越境学習・アンラーニングの場となっています。様々な校種・様々な経験値をもつ仲間と学び合うことは、自分の教育観が必ずしも通用するわけではないアウェイの環境に身を置くこと言えます。違和感や葛藤、そして新鮮さを感じながら、アンラーニングを通して、自身の凝り固まった価値観をもう一度、耕し、そして学びほぐすことで、柔軟な発想や新たな見地を獲得し、自身の教師観・教育観をアップデートしていきたいと思っています。

茅ケ崎市立浜須賀小学校
脇坂圭悟
【参考文献】
石山恒貴 伊達洋駆 2022 『越境学習入門』日本能率協会マネジメントセンター
柳川範之 為末 大 2022『Unlearn(アンラーン)人生 100 年時代の新しい「学び」』日経 BP
松尾 睦 2021『仕事のアンラーニング -働き方を学びほぐす』同文舘出版
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