“Players First”という言葉をお聞きになったことがあるかと思います。文字どおり、スポーツは種目や年齢、競技レベルを問わず、常に選手が主役であり、選手のためのゲームであるべきだという考えです。近年は、スポーツ界に何らかの不祥事が生じる度に、問題を根絶するためのスローガンとしてこの言葉が掲げられます。
当然、子どもが参加するスポーツもそうあるべきで、例えば日本サッカー協会では、“合言葉はPlayers First!”と題してパンフレットを作成し、啓蒙活動を行っています(https://www.jfa.jp/youth_development/players_first/pdf/playersfirst.pdf)。しかし、監督やコーチ、保護者といったスポーツに関わる大人が勝利に対する思いを強くし過ぎてしまうと、時としてそのあるべき姿を見失ってしまうことがあります。具体的には、目先の勝利を欲するあまり特定の選手しか試合に出場させないといったことや、大人が求めるプレーを常に指示して子どもから主体性を奪うこと、さらに度が過ぎると大人が求めるプレーができないことに対し練習や試合中に大声で叱りつけるなんてこともあります。皆さんの中には、そういった問題を抱えた選手やチームを身近に見たり聞いたりしたことがある人もいるかもしれません。子どもが純粋にスポーツを楽しめるように、そしてそのスポーツを好きでい続けられることを優先するならば、大人はこのような関わり方はしないはずです。しかし、現実にはこういった問題は未だ無くなっていません。
私が勤める東京学芸大学では、Players Firstを具現化するスポーツ大会として、2022年から年に1度“3市交流サッカーフェスティバル”を開催しています。これは「教育に特化した東京学芸大学独自の1DAYサッカーフェスティバル」をコンセプトに、大学近隣の小金井・国分寺・小平3市の小学4年生のサッカー選手およそ100名が集まって行う新しい開催方式のスポーツイベントです。ここでは、普段は同じ地区の対戦相手である選手や初めて会う他地区の選手と、仲間として新しいチームを組んでもらいます。そのチームに関わる大人(東京学芸大学蹴球部員)は、チーム結成直後の自己紹介やアイスブレイクの提案、ゲームのレフェリーといった必要最小限のサポートに徹します。そして、どこでどんなウォーミングアップをするか、何分前になったら試合会場に行くか、だれがどのポジションで出場するか、交代はどうするか(必ず全員が試合の半分は出場する、連続で同じポジションで出場しないというルール)、試合が終わった後に次の試合に向けてどんな話合いをするか、こういったプレーに関する活動の全ては子ども達主体で進められていきます。
サッカーである以上、子ども達は優勝を目指して懸命にプレーし、純粋にゲームを楽しみます。それに加えて、本フェスティバルのような開催方式には、子ども達が自ら考え判断し、表現する力が教育的な副次的効果として獲得されるのではないかと考え、大学院生とともに調査を実施しました。2023年のフェスティバルに参加した児童とその保護者18名を対象に、後日15-30分のインタビューを実施したところ、表に示すような発言が得られ、総じて「自己効力感」「内発的動機づけ」「目標設定」という3つの観点から主体性が育まれたことが明らかとなりました。
ここではインタビュー結果のごく一部しか紹介できないのが残念ですが、実際に大会当日の子ども達の様子を見て、そして改めて調査結果をまとめてみて、子ども達はたった1日でもこれだけのことを考え、変わることができるのかという驚きがありました。もちろん上達のためには普段のトレーニングで大人から直接的なコーチングを受けることも必要でしょう。ですが、子ども達が大人から解き放たれてスポーツをする時、その日常の積み重ねが実を結び、逞しい成長に繋がる機会になるのかもしれません。子どもの力を信じ、時には子どもに任せることも大切なサポートだと感じます。