Vol.271子どものためのスポーツ③
スポーツにおけるタレント育成と発掘

2025.01

 スポーツにおいて、“楽しむ”と“勝つ”は相反するものでも共存できないものでもありません。ですが、チャンピオンやプロを目指すならば、できるだけ早くその種目を始めて長時間プレーし、より高いレベルにステップアップしていくことが近道と考える人が多いのではないでしょうか。ここではサッカーを例として選手の育成や発掘に関する実情を紹介したいと思います。

 サッカーは世界でも屈指の人気を誇るスポーツです。皆さんの周囲でサッカークラブに加入している子どもを探すことは難しくないでしょう。実際、日本代表クラスの選手を対象としたアンケート調査(池田ら、2022)によると、競技開始年齢は6.1±2.1歳でした。これは野球やバスケットボール等の他の集団系球技よりも数年早く、サッカーがグラウンド・チーム・指導者といったプレーのための環境が整えられていることが要因のひとつと考えられます。

 では、早期にサッカーを始めた子どもが、その後どのようにステップアップしていくのでしょうか。ボールを扱う能力は主観的・定性的な評価が多くなるため、ここではより客観的・定量的に評価できる項目について見てみます。Jリーグクラブの中学生年代・高校生年代・プロ選手を対象に、選抜に合格して上位カテゴリーに昇格できた選手と不合格で退団した選手(プロは公式戦出場選手と非出場選手)を比較した研究(津越と浅井、2010)があります。この研究では、30m走のような直線的なスピード、方向転換を伴うアジリティ(敏捷性)、垂直跳のようなパワーといった項目が選抜に大きな影響を与えていたと報告しています。その一方で、持久力は全ての年代で昇格群と退団群に差がなく、選抜に対する影響度がかなり小さかったことがわかりました。

 運動能力以外の点はどうでしょうか。先述の津越と浅井(2010)の研究では、全カテゴリーで昇格(出場)群では退団(非出場)群よりも体重が大きかったのですが、身長には差がありませんでした。また、Jクラブのアカデミーに所属する小学生から高校生までを調査した別の研究(広瀬と平野,2008)では、所属選手の東京都の月別出生数から見込まれた期待度に対して4-6月生まれは2倍超の選手が在籍していましたが、1-3月生まれは期待度の約半数しかいませんでした。競技レベルの高い環境にいる選手の生まれ月の分布には偏りがあり、「早生まれ」が少ないことは事実のようです。生まれ月の差は子どもの体格や運動経験の差に繋がり、さらにそれが前段のような運動能力の差となって小・中学生年代の選抜にも無視できない影響を及ぼしていると思われます。

 では、遅生まれの選手や強豪チーム以外の選手は最終的にプロにはなれないかというと、決してそうではありません。2022年のJ1からJ3の全58チーム1973名の過去の所属チームを調査した研究(奥田,2023)によると、中学・高校時代にJクラブアカデミー所属の選手が約半数を占めてはいましたが、公立中学・高校出身選手も約10%ではあるものの存在していました(公立にも強豪高校はありますが)。さらにそのような選手はJ3のような下位カテゴリーばかりにいるわけではなく、J1(27%)やJ2(36.2%)にもいるのです。また、中学時に地域クラブに所属していた選手は37%もいました。この中には、元々Jアカデミーを目指していた子も多いと思われます。このような選手が中学の地域クラブで大きく成長し、高校で強豪私学やJアカデミーへとステップアップしたケースも少なくないのです。

 サッカーに限らず、選手が成長するきっかけは環境に依るところが大きいと思いますし、成長のピークがいつ訪れるかも人それぞれです。未来の子ども達がその時点の自身の能力に合ったチームで伸び伸びと力を発揮できるようにスポーツ環境を整えていきましょう。

東京学芸大学 准教授
新海宏成
【参考文献】
池田達昭,勝亦陽一,鈴木康弘(2022):日本人一流競技者における競技開始年齢およびトップパフォーマンスに至るまでの期間:競技種目差および男女差に着目して.体育学研究,67:303-317.
津越智雄,浅井武(2010):Jリーグサッカークラブにおける上位カテゴリーへの選手選抜に関する横断的研究―体力・運動能力を対象として―.体育学研究,55:565-576.
広瀬統一,平野篤(2008):成長期エリートサッカー選手の生まれ月分布と生物学的成熟度の関係.発育発達研究,37:17-24.
奥田直希(2023):Jリーガーの過去に所属したチームに関する基礎的研究.高松大学・高松短期大学研究紀要,80:45-62.
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