Vol.298海洋と人類が共生した持続可能な社会の実現に向けて③
海洋を題材に進める探究学習 ~令和7年度 東京都海洋研究室での学び~

2026.07

 今を生きる子どもたちにとって、予測困難な時代を生き抜くための力を身に付ける探究学習は、今後、ますます重要となってきます。最終回となる本稿では、海洋を題材に進めた探究学習について紹介します。海洋は様々なトピックと関連させやすく、探究学習とも非常になじみが良いといえます。

 今回紹介するのは、2025年10月~12月にかけて、都立高校に在籍する生徒を対象に東京都教育委員会が主催して実施したプログラム「令和7年度 東京都海洋研究室」です。筆者は本プログラムの企画・運営と一部講義を講師として担当しました。限られた募集期間でしたが、定員である15名の高校1、2年生が参加をしてくれました。応募動機について尋ねると、やはり、「海に関して専門的に学べること」を挙げている生徒が多く、プログラムへの期待の高さがうかがえました。一方で、ある生徒は、「普段の学校生活でなかなか海のことを深く話せる友人がいない。海洋研究室のような場で、もっと思いっきり海の話題で盛り上がりたいと思ったので参加しました」と答えてくれました。そして、その回答に対して、複数の生徒が大きくうなずきながら同意をしていました。SNS世代である高校生にとって、SNSを通じて同じ興味・関心を持つ人たちとつながり、交流することは決して珍しいことではなくなっています。一方で、なかなかそこまでは踏み出せない。けれど、同じ話題で盛り上がりたい!という生徒も少なくないことに気がつきました。このような高校生ならではのリアルな悩み、もどかしさに触れることができ、改めて本プログラムの意義や果たせる役割の大きさを認識することができました。
 プログラムは全4日間(合計8回)の講座と、2回のオンライン指導で構成されていました。講座は大きく座学とフィールドワークに分けられ、座学では、海洋資源の持続的な利用を通じて、海洋環境を保全しながら経済発展を目指す考え方として近年注目されている「ブルーエコノミー」の概念について学んだり、東京湾の漁業資源と自然環境の特徴について学んだりしました。フィールドワークでは葛西海浜公園での生物調査や海上保安庁海洋情報資料館、船の科学館(初代南極観測船「宗谷」)の見学を行いました。筆者は座学にて「探究学習、海洋研究の方法を学ぼう」と題して、探究学習に関する講義を行いました(図1)。

講義では、日本と海の関わりや、海に関する学習の重要性について改めて丁寧に解説を行い、「海」をテーマにした探究学習の進め方を紹介しました。また、近年急速に注目が集まっている生成AIを例に出しながら、探究的な学びは生成AIが苦手な部分に親和性が高く、重要であることも強調しました。さらに、「調べ学習」と「探究学習」の違いについても、生徒同士でディスカッションしてもらいました。わかっているようでなかなか説明が難しいこの問いの答えについて言語化してもらうことで、生徒たちも探究学習とは何か、という点についてイメージを持つことができたように思います。
 プログラムの後半からは班ごとに探究するテーマを決定し、探究学習を進めてもらいました。探究のテーマとしては、「持続可能な漁業とは?」「海水の成分の地域差は?」などがありました。参加した生徒たちは、2ヶ月という限られた時間でしたが、プログラム外でもオンラインツールを活用してコミュニケーションをとりながら、探究を進めました。そして、探究成果は12月下旬に開催された「都立学校TIPSフォーラム2025」にて海洋研究室として発表することができました(図2)。

会場にて口頭発表できる生徒は限られており、生徒たちは誇りに思いながらも、緊張している様子でしたが、会場からの質疑にも堂々と答えることができていました。
 最終的な「探究成果」について、もしかしたらまだ満足できていない生徒もいたかもしれません。しかし、限られた時間で取り組んだ「探究過程」は生徒たちの大きな自信につながったと思います。そして何よりもこのプログラムで海について本気で語り合える仲間と出会えた経験を大切に、今後も海との関わりを続けてほしいです。

 これまで全3回にわたって、海洋教育について紹介してきました。海が近くにない地域の方にとって海洋教育はなかなかイメージがわかないかもしれません。しかし、近年では探究的な学びとして、STEAM教育が注目されており、STEAM教育で育成しようとする「よりよい生活や社会の実現のために、新しい価値を創り出して、実社会や実生活における問題を創造的に解決できるようになる」子どもたちの姿(1)はまさしく海洋教育でも育成を目指す子どもたちの姿と重なります。海洋教育はどの地域でも取り組むべき現代的な教育課題であると捉え直していただき、全国各地で、その地域ならではの実践がなされていくことを願っています。

一般社団法人 探究科学研究所
特定非営利活動法人 東京学芸大こども未来研究所
里浩彰