Vol.193新しい病原ウイルスと共生するための健康教育③
新型コロナウイルス感染が開く新しい社会の扉とメンタルヘルスの課題

 中国武漢で初めて謎の肺炎による患者が報告されたのは、2019年11月22日です。翌年の1月7日には、謎の肺炎の原因が新型コロナウイルスであると特定されました。しかし、すでにこの時点では、このウイルスは中国の国外に出ていたと推測されています。それから半年経った現在、世界で1千万人を越える感染者が確認され、50万人を越える人が亡くなっているのです。その感染拡大のスピードと広がり、影響力は脅威と言わざるを得ません。

 世界の有力メディアは、日本政府による新型コロナウイルス対策は全てが失敗に思えるが、結果は不思議と成功していると驚きの報道をしています。その原因を生物医学的に究明しようとプロジェクトが立ち上がっていますが、その一因として日本国民の自粛生活とソーシャルディスタンスの遵守、マスク装着や手洗いなど衛生行動、衛生観念の高さ、清潔な地域環境の保持などの日常的な社会的健康行動の力も見逃せません。幼児教育から「衛生教育」に取り組んできた学校保健の貢献でもあります。これからも人類はウイルスと共存して生きるとすれば、リモートワークやリモート教育、三密を避ける行動様式、経済活動と感染症対策が両立する社会の在り方を、持続可能なライフスタイル、新しい社会構造・社会秩序とすることは必須でしょう。このことは世界がSustainable Development Goals(SDGs) に真剣に取り組まなければ、さらに大きな代償を支払うことを意味しています。SDGsの実現に貢献しようとしない企業・団体、公共機関、教育機関は、社会的責任を果たしていると言えなくなるでしょう。

 一方で、感染症の恐怖や不安、無力感に加えて、自粛に伴う生活様式、経済活動、社会関係の大きな変化は、とてもストレスフルな出来事で、イライラしたり、攻撃的になったりするでしょう。感染症は偏見や差別を生み、社会的排除、魔女狩りをもたらすことも歴史的に明らかです。日本では、感染拡大が年度の切り替わり時期に当たり、人生や社会で重要なイベントや役割がなくなるという喪失体験や宙ぶらりんの体験も、ボディブローのように効いてくるでしょう。そこで懸念されるのがコロナうつ、コロナ疲れです。

 日本うつ病学会は、HPでこのような状況下での「こころの健康維持のコツ」11か条の日本語訳版を公開しています。
 ポイントを要約すると、①決まって行う日課を設定する、②規則正しい生活をする、③一定時間屋外で過ごす、あるいは④2時間程度、日光を浴びて過ごす、⑤ルーティンの活動は、同じ時間に行う、⑥できれば決まった時間と場所で、毎日運動する、⑦決まった時間に食事を取る、⑧気持ちを分かり合える人とのコミュニケーションを保つ、⑨昼寝はできるだけ避ける、⑩夜間明るい光、とくにパソコンやスマホのブルーライトを避ける、⑪起床と就寝の時間を決め、睡眠のリズムを保つ。
 詳しくはHPで確認して下さい。
 https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/gakkai/teigen/covid19.html

 新型コロナウイルスのパンデミックのような解決困難な事態に対しては、事態の改善に無理な力を注いだり、淡い期待を抱くよりも、時には自分の見方や考え方を変えて事態を受け入れ、そのなかで新しい価値や活路を見いだすことも、メンタルヘルスを保つ上では有効な方法となります。

東京学芸大学 教授
朝倉 隆司
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