Vol.281子どもの豊かな表現を求めて①
創造的音楽活動

2025.08

 筆者は保育者養成に長年携わり、保育者をめざす学生たちと共に、子どもの豊かな表現を支える保育者の専門性について考えてきました。
 領域「表現」にかかる筆者のこれまでの歩みの中から、主なトピックである創造的音楽活動、子どもの劇活動、保育者の役割ついて述べたいと思います。

 日本では、翻訳書『音楽の語るもの』1)の出版により1980年代からCreative Music Makingの導入と普及がなされ、音楽教育の考え方を大きく転換させる契機となりました。当時院生であった筆者はその影響を大きく受け、特に音・音楽に対する真摯な姿勢、音楽活動を創造的な実験の場と考えていることに魅かれ、今日に至るまで小学生や養成校の学生、現職の保育者とともに実践を積んできました。保育者養成校の学生との授業の一部を紹介します。

 4~5人のグループを作り、場所を音で表わし、互いに発表し合う活動です。題材とした場所は「山」「海」「神社」「台所」「遊園地」「駅」等身近な場所です。使用するものは、音楽室にあるものすべてとしました。楽器、カーテン、ビン、袋、紙、音の出るおもちゃ、水などです。活動の流れは、先ず、その場所に存在する音や音楽を出し合い、それらの音をもとにストーリーを考え、ストーリーに合った音探し、音づくりをし、グループで発表します。次に、互いの発表を聴き、「場所」を想像し、さらに、説明付きの発表からイメージを共有します。実際に学生たちが考えたテーマ「駅」のストーリーと表現した音を紹介します。

• 人が歩く音や雑踏の中…足をバタバタする、 ビニールシートをパタパタさせる
• ICカードを改札にタッチする…電子ピアノの高めの音
• 電車がホームに入りドアが開閉する… アコーディオンの空気を押し出す音や炭酸水のペットボトルのキャップを開ける音
• 発車メロディが鳴る…ブルグミュラー《素直な心》の冒頭部分
• 電車が走りだす…いすを使って「タタンタ ターン タタンタターン」と鳴らす

 この活動を通して学生は、自分たちのイメージする音を求めて試行錯誤を繰り返しながら納得のいく音を探求していました。ここでの試行錯誤は即興的な表現の連続であり、無意識のうちに音楽的な実験が行われていました。フレクサトーン、ストーンドラム、レインツリー、ブンブンぜみなど、初めて出会う楽器もあり、1つの楽器から様々な音が出ることに気付き、新しい音の発見を楽しんでいました。

写真2 ブンブンせみ
 学生は、自分のイメージした音や近い音を探し出せた時は『これだ!』と歓声をあげました。また、グループの人たちと「いいね」の言葉を交わし、イメージを共有・共感していました。発表の際には「音のない世界」の重要性についても確認し、音への着目だけでなく沈黙、静寂への意識も大事にしました。学生は、発表の際にアイコンタクトを頼りに音を鳴らすタイミングを確認し合い、音を出すことに集中していました。「説明付きの発表」を聴くと、聞き手側から「あ~」「お~」や「すごい」「うまい」といった歓声が何度も聞かれました。教室全体に共感が生まれた瞬間でした。学生は振り返りの中で、「音と触れ合うことは、楽譜通りに演奏するだけでなく、『どんな音がするかな?』『どうやったら鳴るのかな?』など考えながら触れることが大切だと思いました」、「正解がないことや友達にクイズを出すことで『こうやらなきゃ』という気持ちがなかったので安心して表現できました」と述べていました。正解がなく、自分が思う音を出して楽しむ経験ができたことで、音楽や表現に対する発想の転換につながったと言えます。

 創造的音楽活動で経験した「音による創造的な実験」、「新しい音の発見」、「音環境を知ること」、「音を介して他者とつながること」、「表現による達成感」は、幼児が音と出会い、身の回りの音にじっくりかかわり、音で表現する喜びを感じるプロセスと共通すると言えます。創造的音楽活動は、保育者自身が音や音楽に対する感性を磨き、子どもの表現を受けとめる姿勢を育むことにつながると考えています。

竹早教員保育士養成所 所長 
赤津裕子
【参考文献】
1) ジョン・ペインター、ピーター・アストン共著『音楽の語るもの(Sound & Silence)』音楽之友社、1982年、全387頁
pdfをダウンロードできます!