Vol.039理科教育の未来とSTEM教育③気づきの仕掛け

2016.05

 前回は、STEM教育プログラム「風力発電装置をつくってみよう」とその活動における児童の気づきについてご紹介しました。今回は、その気づきを引き出す仕掛けをご紹介します。

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 「風力発電装置をつくってみよう」では児童からたくさんの気づきが出てきました。例えば、ブロックが干渉しているとプロペラがまわらない、プロペラの角度によって風の受け方やまわり方(速度・向き)が違う、LEDが点灯するためにはモーターの軸の回転の向きと速度が関係している、ギアの大小によって軸の回転速度が変わる、など実にさまざまです。では、こうした気づきは、一体どのような場面で起こるのでしょうか。

 気づきを引き出す仕掛けは、課題の楽しさと葛藤の調整にあります。学びにおいて課題が楽しいというのはとても重要なことですが、全く葛藤の無い楽しさでは気づきや学びにはつながりません。そこで、なんらかの葛藤がうまれるように課題や進行を工夫しています。今回は、手順書の細かい説明をあえて省き、手順通りに正しく組み立てても自分で考え工夫しないと発電できないという葛藤の場面を作り出しました。その葛藤の中で、風の力とプロペラの回転の関係などに自分で気づくことで、初めて発電可能な装置が作れるというわけです。そして、この時の葛藤は、自ら考えることで乗り越えられる難易度に設定しておくことも大切です。失敗続きのような状況では児童たちの成功への期待を満たすことができず、児童はだんだんと活動に関心を示さなくなります。そのため、児童だけで気づくのは難しそうだと判断した場合は、足場かけが必要です。今回は、扇風機のところで「手順書通りにつくった?」「なんでだろう?」「他の班はどうかな?」「さっきと何が変わった?」などと講師が声かけをしました。このように、楽しさと葛藤を調整することで、活動に没頭し、気づきや学びを引き出す仕掛けをつくっています。

 今回紹介したSTEM教育プログラム「風力発電装置をつくってみよう」では、こうして気づきを引き出すことによってSTEMに関するさまざまな視点を養い、児童がその多様な視点をいかして実践し探究していく力を身につけることを目指しています。STEM教育におけるこうした視点や探究力の養成は、学校で理科を学ぶときの「科学を実践する」活動の支えとなるのではないでしょうか。一方で、学校教育で学ぶ知識や概念は、学校外で呼び起こされるSTEMに関わる気づきを児童に提供する機会として重要です。つまり、学校教育における理科や算数,数学,技術等の教科とそれらを総合的な視点からとらえるSTEM教育、双方を行き来しながら学ぶことによって、学びの相乗効果が得られるといえるでしょう。高校で数理探究という新科目が検討されるなど探究に注目が集まっている今、STEM教育という視点も加え、授業だけではない少し広い視野で、理科教育の「科学を実践する」活動を捉えてみるのはいかがでしょうか。

 東京学芸大こども未来研究所では、研究協力校(小学校)を募集しています。科学クラブや特別授業などの形でSTEM教育プログラムを実施いたしますので、STEM教育に興味を持たれた先生は試してみませんか?ご連絡お待ちしております。

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研究協力校(小学校)募集担当までメールにてご連絡下さい。皆様のエントリーを心よりお待ちしております。

NPO法人東京学芸大こども未来研究所専門研究員
木村優里
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