四方を海に囲まれた日本は、海から様々な恩恵を受けて発展してきました。食料や資源・エネルギー確保の観点からも、海は極めて重要な役割を担っています。しかし、近年は気候変動に伴う海水温上昇や海洋酸性化、海洋プラスチックごみ、生物多様性の喪失など、様々な問題が顕在化してきており、改めて「海洋と人類の共生」について関心をもって考えていく必要があります。ところが、残念ながら日本人にとって海は決して身近な存在ではなくなってきてしまっているようです。2024年に日本国内に居住する15歳〜69歳を対象に実施された「海と日本人」に関する意識調査(1)では、「この1年間で1度も海を訪れていない人」が半数を超え、2022年に実施されたときよりもその割合は上昇しています。日本人の海離れが進んでいる状況が浮き彫りになりました。
このような背景を受け、海洋と人類が共生した持続可能な社会の実現に向けて、海洋教育の重要性が高まっています。海洋教育は、「海洋と人間の関係についての国民の理解を深めるとともに、海洋環境の保全を図りつつ国際的な理解に立った平和的かつ持続可能な海洋の開発と利用を可能にする知識、技能、思考力、判断力、表現力を有する人材の育成を目指すものである」(2)と定義されています。2007年には、海洋基本法が制定され、同法28条において、「国は、学校教育における海洋に関する教育の推進のために必要な措置を講ずるものとする」と規定され、法的にも海洋教育の重要性が明確に位置づけられました。
しかし、現状では、学校教育において十分に海洋教育が実施されているとはいえません。小中学校の海洋教育実施状況に関する全国調査(3)によれば、総合的な学習の時間のメインテーマや課外活動として実施した学校は2割以下で、8割近くの学校が、未実施もしくは教科書の範囲のみで実施したと回答していました。また、同調査によって、学校の立地が海から離れるほど、海洋教育の実施率が低下することも明らかとなりました。この結果から、海から離れた内陸地域でも実施可能なカリキュラムの整備が不十分である状況がみえてきました。たしかに、海洋教育と聞くと、海が身近な学校が取り組む地域の学習と思われるかもしれません。しかし、2023年に閣議決定された第4期海洋基本計画(4)では、多様化する子どもの関心に応じて、様々な関係機関が連携して特色ある海洋教育を実施するためのコンテンツを整備し、海洋分野としてSTEAM教育へ貢献する旨が述べられています。つまり海洋教育は沿岸地域だけの課題でなく、日本のどこであっても取り組むべき現代的な教育課題として捉え直す必要があるのです。
これまで筆者は日本全国どこでも海洋教育に取り組めるようにするために、特に内陸地域の学校を対象とした海洋教育カリキュラムや教材の開発を行ってきました。次回からは、筆者が内陸地域の学校で取り組んできた、海洋教育の実践についてご紹介します。