Vol.293教育の再構成①
学校システム変更の苦しみと希望

2026.04

「教育」の再構成が始まったー「近代モデルの限界」と「子ども中心の未来」ー
 いま、私たちが当たり前だと思ってきた「教育」や「学校」の枠組みが、根底から揺れ動いています。学校や教室で、何が起き、どこへ向かおうとしているのでしょうか。

1. 揺らぎ始めた「近代モデル」
 ヨーロッパで長く続いた三十年戦争を終わらせたウエストファリア条約(1648年)によって「主権国家」の概念が確立し、近代国家が成立する基礎がつくられました。しかし、今、ロシアのウクライナ侵攻、アメリカのベネズエラ急襲など、国家主権は大きな社会変動の中で動揺しています。このような近代モデルのゆらぎは、「教育」の現場でも起きています。
・不登校児童生徒数: 小中学校では12年連続で増加し、過去最多を更新
・いじめ認知件数: 小中高・特別支援学校合わせて約77万件となり、過去最多を更新
「右肩上がり」で増え続けるこれらの数字は、子どもたちが学校というシステムから離れていく流れが加速していることを示唆しています。今、「学校システムそのものが壊れ始めているのではないか」という危惧が現実味を帯びているのです。

2. 「学校」は永遠のシステムではない
 私たちが知る「一斉授業」というスタイルは、長い歴史で見ればごく最近のモデルに過ぎません。この授業形態は、 産業革命期に確立された「効率重視」のモデルで、日本においては、明治維新以降、国民国家の形成とともに普及したものです。
 つまり、現在の我々の考える一般的な学校のイメージは、産業革命以降の社会に適応するために作られた「一時的な形態」とも言えます。社会の変化や子どもたちのニーズに合わせて、学校がその姿を変えていくことは、私のような昭和生まれの近代モデルに慣れ親しんだ者にとっては「学校のシステムが壊れていく」ように見えますが、長いスパンでみた場合には、歴史的な必然かもしれません。

3. 「教育」から「こども」「課題」へのパラダイムシフト
 大きな法制上の転換点となったのが、令和5年に施行された「こども基本法」です。ここには、従来の枠組みを越える2つの大きな変化(シームレス化)が込められています。一つは、年齢の壁を取り払ったということです。「児童生徒」という枠を超え、乳幼児から青年までを「こども」として連続的に捉え、年齢の切れ目なく支援することとしました。第二には、領域の壁を取り払ったことです。「教育」だけに閉じず、福祉、医療、心理的ケアなどを一体化し、社会全体で子どもたちの直面する課題解決に取り組むこととしました。「学校がどう教育するか」ではなく、「その子が抱える課題をどう解決するか」に、政策の主眼が移り始めたことを意味しています。

4. システム変更の産みの苦しみ-新しい学びへの広範な合意形成-
 AIなどの先端技術は、教室の風景を劇的に変えつつあります。学校現場では、急激な環境変化に対応するため、学校を支える基盤システム(義務教育制度、学習指導要領、教員免許制度など)の柔軟化など、一人ひとりの学習ニーズに寄り添い、「実質的な学び」を確保するための条件が、今まさに試行錯誤で模索されています。
 現在進行中の人口減少による学校や地域の変化、AI等の社会生活への浸透は、広範に、急減に進んでいきます。その影響はシステム全体に及びますので、対応が遅れれば、相当の混乱と衝撃が予想されます。「学校が壊れていく」という私の感じ方は、言葉を変えれば、大きな変更のための産みの苦しみとも言えます。社会全体に関わるシステム変更には、そのための社会的な合意形成が不可欠です。これは今までに経験したことのない未曾有のプロジェクトです。

佐々木幸寿 学長 国立大学法人東京学芸大学
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