Vol.287地域の特徴をとらえる①
地域構造図で身近な地域の地理をとらえる

2025.12

 今日の中学校の社会科地理的分野や高等学校の地理総合におけるいわゆる「身近な地域学習」では、その地域的課題を把握し解決方法を考えることが重視されています。一方、身近な地域の特徴そのもののとらえ方については、市区町村について学ぶ小学3年生以降は学ぶ機会が少なく、地域の特徴をとらえる方法を知らないままその課題と解決方法を学んでいる状況といえます。
 地域の特徴のとらえ方を端的に述べるのは困難ですが、私は地域構造図としてまとめるのも有効な方法のひとつと考えています。地域構造図にはいくつかの種類があるため(牛垣2024)、ここでは著者の地元である川崎を事例にいくつかの種類の地域構造図の特徴を紹介させて頂き、地域の特徴をとらえる際の参考にして頂ければと思います。

【事象・要素の関係性を重視した動態地誌的な地域構造図】
 図1は、川崎で主にみられる事象・要素とそれらが生じる背景を因果関係として矢印で結んだもので、事象・要素の関係性を重視した地域構造図といえます。

現在の川崎は、マンションが多く人口が増加するとともに、研究開発施設(R&D)、オフィス、ショッピングセンター(SC)が立地しますが、広い土地を必要とするこれらの多くは工場の跡地に位置しており、今の川崎の地理的特徴の多くはかつて工業都市であったことが深く関わります。つまり川崎の特徴をとらえる際は工場という要素を中核としてみると構造的にとらえやすくなり、これは次回扱う動態地誌という地理学の方法論のひとつです。
 また人口が多いのはオフィスが集積し就業先である東京都心部に近接すること、かつて工場が集積したのは人口が多く大消費地である東京に近接することが大きな理由であるため、川崎は、工業都市時代も今も、東京との近接性が地域的特徴に大きく影響しています。

【歴史的視点を重視した地域構造図】

 図2は、現在の川崎で主に見られる事象・要素を右に並べ、それらが生じた背景を左側へ時系列で遡るように描いたもので、時間軸の歴史的視点を重視した地域構造図といえます。 図2では、工場が立地した背景に川崎駅や東海道線・京浜急行大師線、これらが敷設された背景に江戸時代から庶民が訪れた川崎大師をあげています。工場も川崎大師も、川崎ではよく知られる要素ではあるものの、両者の関わりをイメージする人は少ないと思いますが、この図2からは両者が時間軸において鉄道を介して因果関係があることが分かります。

【空間的視点を重視した地域構造図】
 これらの図は分かりやすい反面、南北に細長く多様性に富む川崎を一括りで扱ってしまう弱点もあります。そこで図3は、川崎の内部を2次元で面的にとらえたもので、空間的視点を重視した地域構造図といえます。

川崎は国内を代表する工業都市でしたが、臨海部は鉄鋼・化学などの重化学系の工場、内陸部は電気機械系の工場や研究所とその性格は異なり、北部は工場が少なく住宅地が広がっています。また東京都心から郊外へ伸びる鉄道路線と川崎を南北に貫く南武線が交差する川崎駅、武蔵小杉駅、武蔵溝ノ口駅、登戸駅がその一帯の中心として位置づけられており、図3からは、川崎の地域的差異や空間構造が分かります。
 以上のように、地域構造図にはいくつかの種類とそれぞれの特徴があります。地域の特徴をどのようにとらえるかによって、それを表現する方法が異なります。どのような地域構造図を描けば、地域の特徴を適格に表現することができるか、子どもたちとともに考えてみてはいかがでしょうか。

東京学芸大学 地理学分野
准教授 牛垣雄矢
【参考文献】
牛垣雄矢2020.身近な地域の地誌―神奈川県川崎市の地域調査.矢ケ﨑典隆・加賀美雅弘・牛垣雄矢編『地誌学概論(第2版)』朝倉書店:10-18.
牛垣雄矢2021.川崎駅周辺地域における巡検の実践およびビデオカメラで撮影した動画活用の効果と課題.学芸地理77:151-166.
牛垣雄矢編2024.『身近な地域の地理学―地誌の見方・考え方―』古今書院.
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