Vol.152エジプトと教育①
「教育」というキーワード

 エジプトと言えば、ピラミッドや壁画、ミイラ、葬祭文書等、古代エジプトの豊かな遺産を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。それに加えて、現代エジプトではヌクタと呼ばれるジョークや多彩なポピュラー音楽、食文化などが特徴の一側面として挙げられます。これらはエジプトが長い年月をかけて多様な文化を受容してきたことを示しています。

 このような文脈に生きるエジプト人のキャラクターはよく、とても明るい性格と表現されます。例えばヘロドトスの記録では、ピラミッド建設に駆り出されていたのは当時の奴隷だったとあり、これによってピラミッドは鞭打たれ強制労働をしいられた建設背景が定説でしたが、いくつかの調査からはピラミッド専属の労働者がいた可能性が浮上してきました。エジプト考古学者の吉村氏は、いわゆる庶民層は通常ならば週に1回しか飲めないビールが、ピラミッド建設に関わることで、その報酬として毎日飲めるからこそ喜んで建設に参加していた、と明かしています。また、エジプトの死生観を象徴する副葬品や埋葬習慣においても、現世での生活に幸福を感じていたからこそ来世でも同じ暮らしができるよう工夫が重ねられ、発達していったといわれています。とりわけエジプト人は、その長い歴史の中でナイル川や広大な砂漠と共に生き、人間の力では制することのできない大きな力と向き合ってきたことからも、明るく前向きに過ごすことは、彼らにとっての生きる知恵だったとも考えられます。

 さて、近年のエジプトの統計データに目を向けると、人口は2017年のIMF調べによると9480万人を誇る世界第13位、平均年齢は23.9歳(2017年、米国中央情報局)です。いまなお毎年数百万人以上増え続ける状況も相まって「教育の質向上」が喫緊の課題となっています。これに併せて15歳―24歳の若年失業率(2016年、世界銀行)に目を向けると33.1%と高い数値であり、教育の出口であるエジプト社会が若者を取り込み切れていない状況も浮かび上がってきます。

 これら統計データからは、現代エジプトを支える主力は若者であること、またその若者をいかに育てるかという教育の質向上に並行して、エジプト国内ビジネスの充実(雇用先の確保)が同時に課題として挙げられます。まさに「教育」がキーワードと言えるでしょう。この背景に対し、2016年、エジプト政府からの要請により、「日本とエジプトが基礎教育から技術教育、高等教育に至る広い範囲での協力を強化すること」を目的とした「エジプト日本教育パートナーシップ(EJEP)」が発表されました。これを皮切りにエジプト内で日本式教育が導入され始め、これは日本にとっても、日本式教育とは何だったのか、その良さや課題、国を超えての汎用性を再考させられる機会となりました。

 自国の歴史を尊重しつつも多様な文化を受容してきたエジプトは、日本式教育の導入を新たな契機として、教育を通した自国の課題解決に大きく動き始めました。

東京学芸大こども未来研究所 専門研究員 小田直弥
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