Vol.258人生、日々是体験 ―拙著『体験活動はなぜ必要か』から―③
“P-Ex”によってレジリエンス・グリットを育み“豊かな生”を紡いでいく

2024.05

 前回2回目の記事で紹介した「VARS理論/サイクル」の実践=ポジティブ・エクスペリエンスは(以下、P-Ex)、私たちの非認知能力である“レジリエンス”(逆境力)と“グリット”(やり抜く力)の強化をもたらします。それらの能力は、複雑化し変化の激しい現代社会において、たくましくより良く生きていくために、とくに重要な要素として注目されています。

 “レジリエンス”は、逆境や困難、強いストレスに直面したときに、適応する精神力や心の対処力です。「折れない心・しなやかな心」「逆境力・克服力・再起力」などとも言われます。そのレジリエンスは固定的なものでなく、次の4 要素を鍛えることによって強化できる力だとさます。

I am:自尊感情(今の自分を肯定できる気持ち)の向上。
I can:自己効力感(自分には~ができる・対処できるといった気持ち)の向上。
I have:ソーシャル・サポートを築く(周囲に良好な人間関係を育む)。
I like:ポジティブ感情の向上。

 VARS サイクルを意識したP-Exのような実践において、上掲4要素を高められる傾向にあることが心理学の研究によって認められています。

 もう一方の“グリット”は、「やり抜く力」のことで成功・達成に必要な能力です。「情熱×粘り強さ」としても表されます。そのグリットとレジリエンスの関係を見ると、下図*にあるようにレジリエンスがグリットを育む源泉となっています。

図 “レジリエンス”は“グリット”の源泉

 レジリエンスは、ある種「粘り強さ」という力に置き換えられますし、困難に屈することなく継続する力でもあるレジリエンスは、ある課題に対する熱意や高い関心といった「情熱」を失うことなく保持し育んでいくといった気持ちを内包しているとも言えます。それゆえ、VARS サイクル=P-Exの実践はレジリエンスの向上に繋がり、レジリエンスはグリットを促進するという能力向上の連鎖がもたらされるのです。

 また、ある目標の実現に向けて取り組んでいく=チャレンジしていくプロセスとなるVARS サイクルを実践すること自体が、グリットの向上に寄与するとも考えられます。チャレンジ体験によって目標や課題を成し遂げたことよって生起する達成感や充実感といったポジティブ感情が、レジリエンスの向上に通じることがわかっています。加えて、「次もやってみよう!」という意欲と反復効果が生起することで、「続けてやり抜いていく/やり遂げる」(=グリット)ことの継続プロセスが強化されるからです。

 そして、そのようなポジティビティの向上は、あらたなチャレンジ体験(=VARS サイクル)への意欲を喚起し、さらにより良い状態や成果を生み出していくという好循環を生み出します。このような発展的かつ創造的な上昇サイクルを形成することで、各々の人生において“豊かな生”を紡いでいくことが期待できるのです。






東京学芸大学 教授/附属小金井小学校 校長
小森伸一

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