Vol.118運動部活動のあり方を考える②
期待と不安

2018.07

 「パパ、また遊びに来てね」。

 平日も休日も娘が起きている時間にほとんど家にいることがない私。休日の部活動指導で家を出ようとした時に、たまたま起きてきた当時3歳の娘に言われた一言です。胸に突き刺さりました。

 「ブラック部活動」。この言葉も最近多く目にするようになりました。働き方に関する世の中の潮流と相まって登場してきた言葉だと推察します。ここでいう「ブラック部活動」とは、生徒と指導する(指導させられている)立場の教師の両方にとって、現在の部活動は「ブラック」であると問題提起されている点が重要です。

 今回のガイドラインが策定された背景は、まさにこの点で、つまり、「①豊かなスポーツライフを実現するための生徒の健全育成」、「②教員の働き方改革」にあると考えます。

 ①については、ジュニア期のスポーツ活動において、スポーツ障害等のリスクを減らす、トレーニング効果を高める、バーンアウトを防ぐといった意味で、適切な休養を設定する必要性が指摘されていること等が考えられます。②については、すでに多くの論考やweb等で指摘されているように、教育課程外の活動である部活動の顧問を引き受けることが、教師の大きな負担になっている事実があるということです。

 このような視点に立つと、強制力をもって活動が制限されることは、生徒にとっても、教師にとっても、時代にあった適切な部活動に近づく可能性が多少見えてくるのではないでしょうか。

 一方で懸念されることもあります。部活動がこれまでの日本の学校教育を支えてきた重要な課外活動であるということは、まぎれもない事実です。「部活動があるから学校に登校できる。」、「部活動があるから生徒が落ち着いた学校生活を送ることができる。」といった本来的ではないかもしれない、生活指導の側面における部活動の役割は、これまでも、そして現在も、日本の学校教育において極めて重要です。活動が制限されることで、こうしたこれまでのバランスが崩れ、様々な生活指導上の問題が発生するのではないかと危惧している人も多いのではないでしょうか。また、クラブチームに関わる問題も考えられます。例えば、部活動に代わって保護者が代表になり、地域のクラブチームを立ち上げ、夜間開放等を利用し活動するなど、それ自体が否定されるものではありませんが、生徒に選択する自由がなく、強制されるようであれば、実態はこれまでと何ら変わりがないものになってしまいます。そればかりか、過熱していくことも予想され、さらには、学校間格差のように捉えられる危険性もはらんでいるのではないでしょうか。

 しかし、こうした懸念ばかりを指摘していても先に進むことはできません。現場の私たちが決められたルールの中で模索し実践していくことが未来を変えると信じ、次回はこれからの部活動の在り方に関する展望について、私見を述べたいと思います。

東京都中野区立緑野中学校主幹教諭 土屋太志
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