Vol.300カリキュラム・オーバーロード②
ー小4~中3が毎日6時間だとー

2026.08

 標準時数とあわせて学習指導要領の変遷も見てみたいと思います。学習指導要領が子どもに及ぼす影響を見るときに、教科書の頁数の変遷を見ることが有効です。国が学習指導要領を定めて、教科書会社がそれにもとづき教科書を編集する仕組みがとられているからです。

 図表1は、各期の学習指導要領下における算数の教科書の頁数を比較したものです。1977学習指導要領下では139頁だったものが、2017学習指導要領下では306頁です。

 各期の標準時数にも違いがあるので、頁数を標準時数で割った数字に着目してみます。小学校の1時間、つまり45分あたり、教科書を何頁勉強するのか。「第1次ゆとり」の1977学習指導要領下では、0.79頁、1989学習指導要領下では0.96頁でした。「第2次ゆとり」では1.1頁です。教科書の頁数は減ったけれど、標準時数も減ったので、1時間あたりの頁数は1頁を超えました。

 2008学習指導要領下では1.2頁です。2017学習指導要領では1.8頁。これは、1977学習指導要領の0.79頁から2.3倍です。

 教科書の頁数の増加には、写真や図表が充実して、子どもにわかりやすくなった側面もあります。また、教科書の使用に際して、教員による裁量が保障されている学校では、教材の教え方に軽重をつけることが行われます。教科書の頁数の増加が、直ちに子どもに負担を与えるわけではないことは、忘れてはいけないポイントです。

 ただし、水本王典や永田守の分析によると、2017学習指導要領下の教科書における増加頁の中には、その学年の子どもには難解な内容も多数含まれています(『公教育計画研究』(17)2026)。学習指導要領の変更に、教科書会社は苦慮しているとも言えます。また、現在の多くの学校では、まずは教科書通りに教えることが、広く行われています。
 標準時数と学習指導要領の変遷を駆け足で見てきました。教育史的な整理からは、2017の標準時数と学習指導要領下の教育課程は、子どもにとって負担が重すぎると判断せざるを得ません。

 現場ではどのような見解になるでしょう。子どもに聞くのが一番です。ただし、1人の子どもが1年に経験できる教育課程は1種類だけです。これに対して、教歴を重ねた教員は、どの時期の教育課程が子どもに合っていたのか、複数の教育課程基準下の教育課程を比較して、判断を下すことが出来ます。
 1989年の「第1次ゆとり標準時数」から2017年の「肥大型標準時数」まで、4期の教育課程基準下で仕事をしてきた教員487人に、「各期の標準時数期間の教育課程は、子どもの生活に合っていましたか」を質問して、得られた回答をまとめたのが図表2です。調査は2023年夏に行いました。4期経験は、当時40代半ばから50代半ばの先生たちです。

 1989標準時数下については、77%が「合っていた」「やや合っていた」と回答しています。1998標準時数下については、48%が「合っていた」「やや合っていた」で、52%が「やや合っていない」「合っていない」で、拮抗しています。これは、この時の学校5日制と総合的な学習時間の導入が子どもに好評だったこと、ただし、「平日1日時数」が5.6時間になり負担が増えていたこと。これらの相反する要因によるものでしょう。

 2008標準時数下については、82%が「やや合っていない」「合っていない」と回答しています。2017標準時数下については、90%が「やや合っていない」「合っていない」と回答しています。
 こうした回答の傾向は、質問を「各期の標準時数期間の教育課程では、子どもの学習は充実していましたか」に変えても同じでした。2024年に中学校教員を対象に行った調査からも、同様の回答となりました。

 教育史的な分析の結果と、教員調査の結果が、ピタリと重なりました。

東京学芸大学
大森 直樹
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