Vol.257人生、日々是体験 ―拙著『体験活動はなぜ必要か』から―②
進歩をもたらす創造的な体験とする!―‟VARS理論“の活用―

2024.05

 何かの体験をするとき、どのようにして実りの多い活動とすることができるでしょうか。その観点・方法の1つとして、ポジティブ心理学の知見をふまえた「VARS(バース)理論」の実践を提案します。“VARS”は、[Vision(展望する)][Action(行動する)][Reflection-Sharing(ふり返る・共有する)]における、各段階の頭文字をとったものです。各段階は、次のように考え実践するようにします。

Vision(展望する)】
 「自分が何をめざすのか、どうなりたいのか」といった意図的な目標を選択して具体的に意識・思考する。加えて、達成にむけたプロセスにおけるポジティブ(肯定的・発展的)なイメージをする(笑顔で活動している姿を思い描いたり、達成時やその成果のメリット・プラス面を考えたりする)。

Action(行動する)】
 心身の活性化をもたらす“ポジティブな行動とする”ことをめざして活動する。ポジティブ心理学の知見から、「楽しむ」「感謝する」「親切にする」「仲間とつながる」などといったことを意識しつつ活動することを試みる。

Reflection/Sharing(ふり返る・共有する)】
 自分がしてきたことについて内省し、かつ他者と共有する活動とする。これを実施するにあたり、ポジティブな感情・考えを高めるための効果的な手法として、以下の“I LIKE-GOT” & “I TRY” のアプローチがある。
〔I Like-Got〕
 ある体験をしてみてふり返り、「好ましかったこと・良かったこと(Like)」および「得られたこと・達成したこと(Got)」は何であったかという点から考える。
〔I Try〕
 その体験によって得た気づきや課題を、自らの成長に向けて次にどう生かしていくかというチャレンジ(トライ)の視点から考える。

 そして「VARS理論」は、下図*にあるように、上掲した各段階を認識しつつ行うという取り組みを繰り返します(=VARSサイクル)。その循環プロセスを通して、個やチームの学びや成長を促していくという、進化志向の上昇ループとなるのです(=ポジティブ・スパイラル)。

図 VARSサイクル:ポジティブ・スパイラル

 誰でも日々いろいろなことを体験しています。日常的なこと、特別なこと…。よろしくないケースとしては、やらされている、単にこなしているといった無意識的に消極的な取り組みとなることです。そうなると、その体験をして得られる成果は小さくなってしまいます。私はそのような体験を「無意識な体験」「受け身な体験」といっています。

 「VARSサイクル」を意識することで、そんなネガティブ傾向に陥るのを回避し、ある目標の達成を目指してチャレンジしていくといった、より自主的で意図的なアクティブな取り組みとすることができます。そして自らする体験を、気付きと学びを一層促しつつ成長と進歩をもたらし“豊かな生”へと導く創造的プロセスへと通じていくのです。そのような体験のあり方・取り組みを、「ポジティブ・エクスペリエンス(P-Ex)」と言っています。是非試してみてください。

東京学芸大学 教授/附属小金井小学校 校長
小森伸一
pdfをダウンロードできます!