Vol.278先端科学技術時代の授業設計①
効果的な教え方って何?

2025.06

 先生方なら、「良い教え方ってなんだろう?」、「どうすれば良い教え方ができるのか?」と考える機会は多いのではないでしょうか。私自身、大学在学時の教職課程で模擬授業を行う際に、どのように学習指導案を設計すれば良いのか、どう授業すれば良いのかがわかりませんでした。「最初から、ベテラン教員のように良い授業ができれば良いのになあ」と、もどかしい気持ちがありました。
 ベテラン教員の教え方の工夫点には、教科によらず、共通性があると思います。教育工学の分野では、インストラクショナルデザイン(ID)という分野があります。IDは、教育活動の効果・効率・魅力を高めるための手法を集大成したモデルや研究分野を指します[1]。すなわち、IDは、ベテラン教員の教え方の集大成なのです。ここでは、明日の授業でも使えるIDの理論を紹介します。

(1)9教授事象
 一般に、授業の流れは、「導入」、「展開」、「まとめ」の3段階で構成されることが多いですが、より詳細に、9つの段階で示したものが、「9教授事象」です。これは、教育活動の効果を高めるための理論です。授業の流れと、教授事象、子どもの学びを対応づけたものが、表1です[2]。

(2)9教授事象を盛り込んだ授業例
 具体例として、高校数学の三角比の授業例を考えてみましょう。導入では、「古代エジプトの数学者タレスが、ピラミッドの高さをどのように測ったか?」と問題提起し、学習者の注意を喚起します。また、本時の目標が、「具体的な直角三角形の三角比を計算できるようになる」であることを板書し、学習者に目標を知らせます。この目標は、「〇〇を理解する」などではなく、観測可能な行動目標で記述します。さらに、相似比について復習することで、三角比の学習に必要な前提条件を思い出させます。
 展開では、三角比の定義と一般的な具体例を紹介することで、新しい事項を提示します。また、英語の筆記体のs、 c、 tの書き方が、それぞれsin、cos、tanの定義と一致することを紹介し、学習の指針を与えます。さらに、三角比を求める具体的な練習問題を個人で取り組むことで、練習の機会を作ります。このとき、テストではなく、失敗が許される状態で練習をすることが大切です。加えて、机間指導などを通して、練習問題の結果が正しければ、どこが正しいのか、誤っていれば、どこをどのように修正すれば良いのか、フィードバックを与えます。
 まとめでは、導入で提示した学習目標に到達したか確認するために、振り返る時間を設けたり、必要に応じて小テストを実施したりして、学習の成果を評価します。さらに、学んだことを他の分野や場面に活かすために、「身近な例で三角比を活用しているものはどのようなものがあるか調べよう」などと伝え、学習の保持と転移を高めます。

 9教授事象は、必ずしも全て盛り込む必要はありませんし、必要に応じて盛り込む順序を変更しても構いません。先生方が普段行っている授業にも、9教授事象で挙げられる工夫点はあったのではないでしょうか。また、不足事項を検討することで、より効果的な授業設計のガイドとなるでしょう。

島根大学教育学部附属 山陰教員研修センター
先鋭研究部門 特任助教
中村謙斗
【参考文献】
[1] 鈴木克明(2005)e-Learning 実践のためのインストラクショナル・デザイン。日本教育工学会論文誌、29(3)、 197-205.
[2] 寺嶋浩介(2022)第3章 設計の基礎(1)授業をつくるということ。稲垣忠(編著)教育の方法と技術 Ver. 2:IDとICTでつくる主体的・対話的で深い学び。北大路書房、pp.27-41
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