「『スポーツ』ってなんだろう?」。この発言は、バリアブレイクスポーツ開発プロジェクトに参加している大学生が、まさにゼミ内で喧々諤々、試行錯誤をしている真っ最中にこぼした発言です。
このバリアブレイクスポーツ開発プロジェクト(通称:バブスポ)は、東京学芸大学 健康・スポーツ科学講座の鈴木聡准教授のゼミを中心とする学生が、発達障害の有無に関わらず子どもたちが一緒に楽しんで遊べて、発達障害に対する理解が得られるスポーツの開発を企業団体等 1) との共同研究として取り組んだ産学連携プロジェクトになります。「バリアブレイク」という名称は、障害のみならず、それぞれの立場や、研究領域、既定概念などを含めた「様々な垣根を取り払う」という意味も込めて名付けられました。
発達障害児は、生まれつきの認知や行動の特徴によって、対人関係やコミュニケーション、行動や感情のコントロール、学業などに困りごとを抱えることが多いといわれています。近年、発達障害等で支援を必要とする子どもが教育現場でも増加し、インクルーシブ教育や合理的配慮の推進が求められています。そのため、普通学級内でも発達障害の有無に関わらず、子どもたちそれぞれの特性に応じた学級づくりが必要になってきています。
鈴木聡准教授は、次のように考えています。 学生たちも、学校教育の現場で、発達障害のある児童・生徒と関わる機会が多くあります。発達障害のある児童・生徒とない児童・生徒とが一緒のクラスを運営していくことは、今後教育に関わっていく学生にとって将来直面する可能性が非常に高いことです。一般的には、スポーツをあまり好きではないといわれる発達障害の児童・生徒に対して、「スポーツの面白さを伝えたい」、さらには、「スポーツを介して発達障害の有無に関係なくみんなで楽しむ機会をつくりたい」ということは、スポーツの既成概念・本質と向かい合うことでもありますし、試行錯誤し、そのような課題を解決していくプロセスを通して、子どもたちへの理解が深まることはもちろん、多様な社会を生きていく子どもたちを育てていける人材育成になることが期待できます。教育学部で学び、スポーツを核に教育を考える学生だからこそできることがあるのです。
学生たちは、これまで様々な競技スポーツで成功をしてきたメンバーが多いため、特にスポーツに対して苦手意識をもつこともなかったことでしょう。しかし、学校教育という環境では、全ての子どもがスポーツを得意なわけではなく、不得意や苦手意識がある子ども達にも、スポーツの楽しさを伝えていくことが、教員としての大切な仕事の一つになります。これは運動やスポーツに限ったことではありませんが、得意なことや意識せず上手くできることなどを、不得手な人や上手くできない人などに教えることはなかなか難しいです。また、例えば自転車など、最初から乗れたわけではないのに、乗れるようになると乗れなかったときの感覚に戻ることが難しいものなどもあります。どのように指導をしたり体験をさせれば、子ども達をスポーツの楽しさへと導いていけるのかを考えていたとき、ゼミの中で聞こえてきたのが、「『スポーツ』ってなんだろう?」でした。これまで自分たちが体験した世界をまた違う視点で見つめなおしながら、学生達はバブスポ開発に取り組んでいます。
1) 国立大学法人 東京学芸大学、NPO法人東京学芸大こども未来研究所、一般社団法人 世界ゆるスポーツ協会、ゆるスポーツYOUTH、公益財団法人 東京都公園協会、株式会社 毎日放送、塩野義製薬株式会社、国立大学法人 筑波技術大学 大鹿綾講師