自分たちとお金や金融との関わりに注目した金融教育には、消費者主権、生涯生活設計、貯蓄、ローンと社会的信用、多重債務、リスクと保険、税金、キャリアデザイン、労働と報酬、金融犯罪、金融関連法規、金融の意味と金融機関の役割、経済・金融市場の変動、フェアトレードや環境の保護等々、実に多様な学習テーマが存在し、子どもの発達・現状と教科等の内容を踏まえた実践研究が行われてきました。
そうした中で、改めて今後の研究課題の一つとなっているのが「投資」です。日本では、お金は無駄遣いせず貯蓄するという意識が強く、預貯金以外の金融商品、例えば企業の株や債権、投資信託などを買って投資をする人の割合は、欧米に比べて低い状態が続いてきました。金融商品の知識と情報を持たないとすれば、「投資」とギャンブルの区別がつかないのは当たり前かもしれません。ただ、少子高齢化などにより、年金や医療など社会保険の危機が指摘される現在、金融犯罪やリスクと共に「投資」についての基礎的な理解を図ることは、金融教育の重要な役割となっています。自発的か受動的かという違いはあっても、実際に自分も一生懸命働くけれど、そこで得たお金にも働いてもらい、多少なりとも幸福の実現に寄与してもらおうと考える人が増えているのは確かでしょう。
そうした現状を踏まえて「投資」の動向を見ると、単に金銭的利益だけを求めるのではなく、自らが共感したことにお金を投じる人が増加していることがわかります。その中心は、教育や福祉、環境や貧困等々の問題に取り組み、よりよい社会づくりと経済的利益の両方をめざすソーシャルビジネスやNPOなどに資金を投じる社会的投資といわれるものです。この社会的投資は、目的と事業計画をインターネットで告知し、協賛者から広く資金を集めることのできるクラウドファンディングによって容易になりました。
金融教育では、そうした社会的投資を取り上げることから、「投資」への理解を深めると共に、自らの生きる社会の問題に関心を持ち、その改善や解決にいかに参加・参画していくのかを考える場を開いていくことが期待されます。その過程では投資のリスクはもちろん、お金を投じて終わりがちな寄付との違い、自己の価値観や生き方などについても具体的に考える学習が展開できるはずです。「投資」は金銭を多く得ることが目的なのか、幸福感・自己有用感を得るための手段なのかなど、自他の福利の実現とお金との関わりを問い直すことができるなら、金融教育は生き方の教育として一層充実したものとなるでしょう。