Vol.153エジプトと教育②
3つの学校から浮かび上がる現状

2019.07

 2016年2月28日から3月2日にかけて行われたエジプト国大統領の日本公式訪問の機会に、両首脳はエジプトの若者の能力強化を目的とした「エジプト・日本教育パートナーシップ」(EJEP)を発表しました。EJEPでは、「日本に派遣されるエジプト人留学生・研修生数の拡大」「エジプトでの日本式教育の導入」「保育園及び幼稚園における『遊びを通じた学び』の推進」等、両国政府が今後協力をして推進していく分野として12が挙げられ、その後、エジプトにおける幼児教育現場に「遊びを通じた学び」という時間が設けられるなど、EJEPがエジプトの教育に直接的な影響を与えていることが見受けられます。

 以下、2019年2月に訪問したエジプト/カイロにおける3つの学校から現地の教育事情を見ていきます。

 1校目は、私立学校の経営・運営を行うCIRA(シーラ)の持つ学校です。

見学をした校舎には年中、年長から高校生までが通っており、1クラスは20名ほどでした。CIRAでは今後ICTを活用した教育に力を入れていきたい、とのことでしたが、それとは裏腹に、生徒のパソコン画面を見るとインターネット接続ができていない様子も見られました。

 2校目は公立小学校です。教室をのぞき、まず目に飛びついたのは教室いっぱいの子どもたちでした。1クラスは45名ほどで

どの教室においても教師は大きな声で授業を進行していました。公立学校の教員は、社会的地位の低さや薄給による仕事の掛け持ちなど、多くの不安と課題の中で教育に向き合っている現状があるとのことです。

 3校目はEJEPで掲げられた目標達成のためにJICAが支援しエジプト政府が設立しているエジプト・日本学校(EJS)です。EJSは日本式教育を取り入れた学校となっており、このプロジェクトの背景は、エルシーシ大統領が日本の公立小学校を視察した際にみた児童の協調性溢れる姿に感銘を受けたことによると言われています。訪問した学校では係活動や日直の他、植物や動物の世話、fruits dayという親子一緒にフルーツを食べながらフルーツについて教えあうという取り組みもしているとのことでした。

 三者三様、教育現場の質が異なり、課題も異なっているように見えるのですが、インフラの整備や社会的地位の問題等、社会課題に依拠する教育現場の課題は共通して散見されました。教育を学校の中だけで抱えるのではなく、企業等、社会を巻き込んで、一体となって推進していく体制の重要性が再認されます。

東京学芸大こども未来研究所
専門研究員 小田直弥
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