今回は「保護者会」をテーマに、経験豊かなベテラン教員のアドバイスや現在現場の第一線でがんばっている先生方の取組などを紹介しつつ、より楽しく余力的な保護者会へのヒント探っていきます!
学期末、保護者会のシーズンである。新卒の頃は、1年の中で、保護者会が一番緊張するシーンであった。学年主任が進行する学年全体会の後、学級に分かれて学級懇談となる。いよいよ自分の出番だ。保護者の前で、連絡事項を伝え、最近の児童の様子を語り、あっという間に用意していた内容を伝えきり、時計をちらりと見るとまだ半分以上の時間が残っている。先輩から聞いた「時間が余ったら参加してくださっている保護者の方に1人一言ずつ話してもらうといいよ」という言葉を思い出し、その通りにして時間を過ごす。勿論、保護者の語りから児童理解が深まり、価値あるものであった。中には、面白おかしくお子さんのエピソードを語ってくださり、会場の爆笑を引き出してくださるお母さんもいた。笑顔で保護者会が終わるとほっとする。一方で、当時年齢的に少し先輩であった保護者の方に「助けていただいた」という惨敗感が否めない思いもあった。
7年目、異動して今までの保護者会の概念と全く違う世界に出会った。学年全体会の場には、120人近くの保護者がいる。そこでの学年主任の話は、連絡事項ではない。最近の子どもたちの様子を実にリアルでユーモアを交えて語るのだ。子どもたちが確かにそんな様子だった、と私も頷きながら聞く。そして、教育の現代的な課題を盛り込みながら見事に、子どもたちの「よさ」と「課題」を分析する。家庭教育の必要性と学校教育の責任を述べ、ともに手を取り合って「共育」していこうとまとめる。「子どもの立ちの生活をわたしたちはもっとたのしくなるように支えていきます」学年主任はそう語ると、黒板に「楽しい」「愉しい」という2つの字を書いた。「違いわかります?」保護者はますます前のめりだ。「楽しい」もいいけど、こちらの「愉しい」をめざす、というのだ。「愉」のつくりの部分は、「ものを運ぶ」という意味があるという。「くるまへん」をつけると運輸の「輸」、ごんべんえをつけると「諭す」の「諭」。「やまいだれ」と「したごころ」で病気が良くなる「治癒」の「癒」。心も体も良くなるという意味だ。翻って、「愉しい」は、「りっしんべん」。心が変容する、ということだという。学年主任は、子どもたちが、変容していく愉しい学校生活を送れるように支えていくというメッセージを保護者に伝えたのだ。私は、保護者の方と同じ立場で聞き入ってしまった。
(後半へ続く)
東京学芸大学准教授
鈴木 聡
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