3回目は未来の保育者をめざす人へのメッセージをこめて、保育者の役割について述べていきます。まず、事例を紹介します。
3月の卒園間近の5歳児の取り組みです。DA PUMPの「USA」という楽曲をご存じでしょうか。子どもたちに人気があり、好きな遊びの時間に男児の何人かが踊るようになりました。当時のISSAさんはジャケットの下に赤いインナーを着ており、裾から赤い三角がのぞいていました。その衣装の特徴をとらえて、布で三角を作り、踊る時はいつも身に付けていました。(写真1)

この事例から子どもたちの集団としての育ちについて述べたいと思います。
子どもたちは幼稚園以外の場においても、多くの文化に触れています。家庭、地域、習い事など様々です。耳にしている音楽もJ-pop、アニメソング、童謡などいろいろです。幼児が主体となって活動を展開する場合は、幼児のこれまでの体験が大きく影響します。幼稚園や保育所では、異なった文化をもった個々の子どもたちが集まり、かかわりをもちながら様々な経験を積み重ね、つながりを持ち、集団を作っていきます。一人一人の子どもにとって豊かな経験が積み重なることによって、集団が「開かれた関係」になっていきます。
この事例の子どもたちは「一緒にあわせたい」という気持ちを高め、互いを認め、それぞれが「自分らしく」自分のできることで参加していました。ただ踊るだけであれば、CDを流せばよいし、興味のある何人かで行えばよいわけですが、クラスのみんなでやることに意味を見出したのは、2月に行われた発表会での経験があったからであり、幼稚園での経験の中でこそ培われたものであると考えられます。幼児期の卒園間近において「開かれた関係」が作られ、集団としてよい方向性を見出すことができたすてきな姿であると思いました。
さて3回にわたって学生や子どもたちが生き生きと表現する事例を紹介してきました。これらの取り組みで共通することをまとめてみます。
一つには、表現者(学生、子ども)が主体となって、対象(音・音楽、物語)とじっくりとかかわり、表現することを楽しんでいたということです。二つには、活動を通して、個々がつながり、心を通わせ、互いを認め合い、開かれた関係が作られていたことです。三つには、文化を自分の外にあるものと捉えるのでなく、私たちが文化として「大切」にしていることを、文化的な実践を行うことによって、より豊かな文化的実践をめざしていることです。これらは領域「表現」がめざす重要なポイントであると考えます。
そしてこのような文化的な実践に子どもたちをいざなう保育者には、次のような専門性が求められると考えます。まず、子どもの「こうしたい」や「善くありたい」を受けとめる「子ども理解」です。次に、表現の芽生えを発見し、その表現を読み取り、より豊かな表現が展開されるように環境をつくり、保育を計画する「保育の構想」。さらに、みずみずしい感性と豊かな表現力も持って自らが「文化的実践者のモデルになる」ことです。
子どもの表現は何をめざすか。それは、「個」が大事にされ、「集団」の中で「個」が生かされ、「文化」とかかわり、より豊かな表現者へとむかうことであると考えます。そんな保育を学生や保育者の皆さんとこれからも一緒に考えていきたいです。