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Vol.008グローバル化と母国語①グローバル社会で必要とされる言語力とは①

pic_01  今日のグローバル社会において、国と国との境を越えた人々の交流は特別なことではなくなりつつあります。我が国でも一昨年度、在留外国人の数が再び上昇し、ビジネスの場だけでなく、日常生活の場で異文化間交流をする機会も増えているのではないでしょうか。
 日本人がグローバル社会で活躍するためには、英語で円滑にコミュニケーションをする力が不可欠だと言われています。将来を担う日本の子どもたちにできるだけ早くから英語に親しんでもらい、英会話の力をつけてもらうことが、グローバル人材を育てる最良の策と考えている大人は少なくありません。実際、家庭でも学校でも塾でも、英語を話す先生がいたり、英語のビデオや本があったりと、子どもたちが英語に親しむ機会は、昔に比べて増えていると思います。できれば子どもを日本語と英語のネイティブスピーカー、すなわち日英バイリンガルに育てたいと思われる親御さんも少なからずいらっしゃいます。
 しかしながら国内で私たち大人が英語を使ってコミュニケーションをする必要性はまだそれほど増えていないように思います(オリンピック開催に向けて、増えていくことを期待しましょう)。また国際結婚家庭は例外ですが、一般的な家庭での日常会話は日本語のみでなされていると思います。つまり今我が国で育つ子どもたちが、日常的に耳にする会話のほとんどは日本語ということになります。この点は、日常的に2ヶ国語を使うことが当然であるカナダのようなバイリンガル社会とは大きく異なります。社会や家庭で日本語しか使われていない我が国で、日本語と英語のバイリンガルを育てるのは、並大抵のことではありません。日本人の親を持つ子どもであれば、日本語を母語として獲得し、英語を外国語として学習するという選択が最も現実的でしょう。
 さて外国語として学ぶ英語でも、早いうちから学ばせれば、子どもはより高い英語力を習得することができるという見方があります。しかし、これも注意して考える必要があります。早いうちに伸びる言語力の側面として、言語の音声を識別する力があります。子どもは生後10ヶ月くらいで、それまでずっと耳にしていた母語に特化した音声識別能力を獲得します。母語にはないけれども外国語にはある音声を識別する能力はそのころを境に衰えるので、たとえば英語のLと Rの違いのような音声の識別を英語のネイティブスピーカー並みにすることは、日本人には困難となります。一方、身近に英語で話しかけてくれる大人がいる環境で育てば、日本人の子どもも英語の音声を識別する力を維持できることを示唆する研究もあります。このような研究成果から、言葉の音声面においては、外国語早期教育の効果が期待できると推測します。
 対照的に、語彙の発達に代表される言葉の意味の獲得は、1歳ごろからようやく始まり、大人になってからも継続するという特徴があります。意味概念には単純なものもあれば複雑なものもあり、具体的なものから抽象的なものまであります。複雑な概念、抽象的な概念は、母語であっても、獲得に時間がかかるものです。外国語の意味概念の獲得も同様に、早期教育の効果はそれほど期待できないだろうと考えます。逆に、中学校から外国語学習を開始したとしても、母語が順調に発達している子どもであれば、語彙力の到達点は早期に学習を開始した子どもに勝るとも劣らないはずです。外国語の語彙学習は、母語の力に支えられている部分が大きいと言えるでしょう。
東京学芸大学国際教育センター教授
松井智子
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