Vol.019局面学習を活用した体育学習①運動の本質的な動きに触れることで学び続ける体育学

2015.09
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 今回は、小学校体育における一つの実践事例研究をご紹介します。この実践は、「局面学習」の理論をベースに置き、「できること」と「わかること」を通して子どもたちが運動の技術を媒介にしながらコミュニケーションをとり、ともに伸びていくことを教科目標にして取り組みながら、「体育科で学び続ける子どもの姿やその原動力は何か」について考察を行った研究です。体育学習としての内容を抑えながら、それと同時に「楽しい」授業にも仕上げていくことは、どのようにすれば可能なのでしょうか?

新しい体育学習観に対する考え方
 体育科の新指導要領は大きな変換があった。一般的には、いわゆる「楽しさ」を追究し、児童がプレイすること自体に喜びを感じ、生涯スポーツへと発展させられる学習を目指していた考え方から、学習内容を明確にして「確かな学力」の確立をめざすといったアカウンタビリティに答える意図をふまえた学習観へのパラダイム転換と捉えることができるであろう。例えば新学習指導要領において、ボール運動領域は「ゴール型」「ネット型」「ベースボール型」の3分類で示されたが、これは、ゲームの様相を戦術やルールという観点からみたものである。つまり、ボール運動にはその種目を楽しむための共通した「技術」や「戦術」の能力があり、それを育むことがこれからのボール運動学習のあり方だと捉えることができる。(友添他、2008)勿論、体育学習において、「楽しさ」を大事にすることは、新指導要領においても同じであろう。しかし、「楽しさ」を強調するあまり、「何を学んでいるのかわからない」という疑問や「楽しければそれでよし」とする授業が生まれてしまったことは、ここ数年体育科教育を取り巻く状況の中で繰り返し議論されてきた。このような状況の中ではあるが、本校体育部が考える体育科の教科目標のとらえ方は、以前から「できること」と「わかること」を通して子どもたちが運動の技術を媒介にしながらコミュニケーションをとり、ともに伸びていくことを目指すものであった。学習内容を明確にすることは言うまでもなく、子どもたちは運動を楽しむことや意のままに体を動かすことができる姿を支え、運動をすることが大好きになることを目指してきた。指導要領における大きな変換は視野に入れつつ、本校が目指す教科目標の実現に向けた研究内容や成果及び、今回の提案の重点である、「体育科で学び続ける子どもの姿やその原動力は何か」を述べていくこととする。

体育科で育てたい子ども
 本校の体育学習で育てたい力は、運動することが大好きな子どもである(村田他、2006)。生涯スポーツを目指したとき、その原点となる小学校における体育学習において、主体的なスポーツ実践者としての素地を形成することは、体力低下への対応としての体育科必要論以上に重要な役目である。子どもたちが、これからの人生において、どのように体育やスポーツと関わっていくかを考えたとき、いくつかの可能性があげられる。

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 まずは、スポーツ自体を楽しむことである。これは、いわゆるレクリエーションとしてのスポーツ愛好という関わり方から、競技スポーツやアスリートを目指す関わり方まで幅広い。加えて、スポーツの指導者、スポ-ツの研究者等が考えられる。そして、全ての子どもたちが関わるであろう姿はスポーツ観戦者である。このように、人生を通してスポ-ツとの関わりを考えると実に多様な様相が想像できるのである。我が国において、スポーツは歴然とした文化であり、文化に触れるということはよりよく生きる姿として重要なことである。その素地をつくる教科として体育科が位置づくとすると、学校体育においてはやはり主体的なスポーツ実践者を育てるということは重要な視点となろう。生涯にわたるスポーツとの関わりを考えながら体育科で育てるべき教科内容や学習内容を考えると、技能、戦術能は勿論、ルールの学習、マナーの学習、ゲームや技の分析力、スポーツ史、企画運営、コーチング等多岐にわたる。各学年の発達段階を鑑み、またカリキュラムの系統をふまえた上での学習内容の重点化は今後の検討課題としていくが、全ての前提になるのが子どもたちが運動に親しみ、体を動かすことが大好きになることである。そのためには、今回の重点提案である「本質的なスポーツの面白さへの気づき」及び「問題の共有化と合意形成による自分たちのゲーム(今回はボ-ル運動に視点を当てたためこの表現とする)づくり」が必要となろう。その学びの原動力となるのは、紛れもなく子どもたちがゲームに投入することである.ゲ-ムに浸ることによって、自分たちのゲームをより深化発展させ、面白さの追究の過程は人類がスポーツ文化を創ってきた歴史をなぞる行為が実現されるのである。この学びは、学校研究で追究する学び続ける姿に他ならないであろうし、一方的な文化の伝承ではない、「なぞり(伝承)」と「かたどり(創造)」の円環運動としての学び(佐藤1995)の実現と言えると捉えている。
研究紀要 / 東京学芸大学附属世田谷小学校 no.42 p.115 -120
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