Vol.053造形活動を通して、学ぶことの意味①具体物と関わりながら育む「質的な判断力」

2016.10
53_pic_01  図画工作・美術科教育(以下、美術教育)の教科としての特徴は、具体物と関わりながら学ぶということにあります。子ども達は様々な行為を通して具体物と関わり、そこで生まれた自分のイメージを基に、自ら思い描く世界を表していきます。しかし子ども達はそれに満足することなく、さらによりよきものを求めて、新たなものにつくりかえていきます。この繰り返しの過程こそが、美術教育の学びの特徴といえます。
 造形活動には具体がともなうことから、つくりたいという思いや、言葉として得た知識だけでは形になりません。例えば粘土で立体を表すにも、自分のイメージを具現化するためには、材料や用具の特性を知り、またそれが形になるように、自らうまく操作する必要があります。つまり知識を有効にいかしながら、それに即した「動き」をともなうことで、はじめてそこに形が生まれるのです。
 造形活動ではその過程で、絶えずこのような「質的な判断」が行われています。この造形的な「質的な判断力」こそが、美術教育において、育みたい力なのです。

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 これまでの美術教育の授業づくりでは、例えば「花の絵を描く」や「楽しい工作をつくる」など、「何かをつくる」ことが、授業づくりの中心にありました。しかしこれからの授業づくりでは、そこで子ども達がどのような「質的な判断」を行うのか、それを想定した授業づくりをすることが大切です。子ども達はつくる過程で、様々な「質的な判断」を行い、その判断したことが、身体の動きとして表れてきます。つまりその「身体の動き」を柱に、授業を設定するのです。美術教育の授業が、これからも絵に表したり、材料を基に造形遊びをしたりすることに変わりはありません。しかし従来の美術教育の授業を、「質的な判断」という視点から見直し整理することで、今日的な課題を克服するための新しい授業が、きっとそこに生まれてくると思うのです。
東京学芸大学准教授
西村徳行
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