前回は海洋教育の重要性についてお話ししました。今回は筆者が海から離れた内陸地域の学校で実践してきた海洋教育の一例を紹介します。海が身近でない地域で海洋教育を実施する際、筆者は「必ずしも海辺で活動しなくてよいこと」「普段の授業や生活とのつながりがわかりやすいこと」を大切にしています。
今回紹介するのは、海洋プラスチックごみ問題を題材に、東京都内の中学生を対象に実施した授業です。プラスチックによる海洋環境の汚染は、現代の私たちが解決すべき喫緊の環境問題の一つです。SNSや様々なメディアで目にすることも増えてきており、学校では「ウミガメの鼻にストローが刺さった写真を見たことがある」「2050年には海洋プラスチックごみの重さが魚の重さを上回るんでしょ?」との声を聞くこともあります。このように、海洋プラスチックごみ問題自体は認識されているようですが、子どもたちからはどこか「画面の向こうの世界の問題」という雰囲気を感じ、自分たちにも関わりのある問題として捉えられていない印象を受けることがありました。たしかに、海が身近でない子どもたちにとっては、自分との関わりを見出しにくいため、当然の反応なのかもしれません。しかし、海洋プラスチックごみの7~8割は陸由来といわれており、内陸地域の子どもたちにとっても決して無関係な問題ではありません。そこで、海洋プラスチックごみ問題について正しく理解し、この問題を自分事として捉えてもらうことを目指した授業プログラムを開発しました。
授業では、導入として実際の海岸の様子や、そこから採集された海洋プラスチックごみの観察を行いました(図1)。
その後、素材としてのプラスチックの特徴や海洋プラスチックごみ問題の背景について解説をしました。さらに、海洋プラスチックごみ問題の解決方法に目を向けてもらうために、問題解決の一助として期待されている生分解性プラスチックについても紹介し、例として株式会社カネカが開発した、カネカ生分解性バイオポリマーGreen Planet®(以下、Green Planet®)(1)を取り上げました。Green Planet®は植物油由来のポリマーで、土中だけでなく、海水中の微生物によっても水と二酸化炭素に生分解される特徴があり、世界で初めて工業化に成功した素材です。大手コーヒーショップの紙製ストローがGreen Planet®製に変更されたことも話題となりました(2)。より実感を伴って理解してもらうために、Green Planet®製、紙製、ポリプロピレン製の3種のストローを用意し、これらの見た目や硬さなどを比較観察してもらいました(図2)。 また、その他に実用化しているGreen Planet®製のカトラリーやボールペン、くしなども紹介しました。そして授業の後半には、Green Planet®の活用アイデアについても生徒同士でディスカッションをして発表してもらいました。授業後に生徒からは「海に流れてきたものを実際に見たり、ストローを見比べて観察をしたり、さらには自分たちで商品案を出すなど、今までやったことがないことがたくさんあってすごく興味深かった。マイクロプラスチックをよく知り、プラスチックとしっかり向き合っていきたいと思った。」「プラスチックそのものを正しく利用したり活用したりすることが環境問題の改善へとつながり、その過程でプラスチックの長所と短所を理解することが大切であると感じました」などの感想が得られました。
これまで「画面の向こうの世界の問題」であった海洋プラスチックごみ問題も、普段の生活で利用しているストローを教材として扱ったり、解決方法や生分解性プラスチックの活用方法について考えたりすることで、「自分と関わりのある問題(=自分事)」として捉えられるようになった様子がうかがえました。なかなか一筋縄ではいきませんが、自分にも関係がありそうだなという小さな積み重ねを大切にしていきたいと思っています。
次回は海を題材にした探究学習の実践について紹介します。