前回は、効果的な教え方の例として、インストラクショナルデザインの理論である、9教授事象を紹介しました。一見、9教授事象を網羅すれば、必ず効果的な授業が設計できるようになるとも思えますが、実際はそう簡単にはいきません。例えば、学習内容が苦手な生徒さんは、そもそも授業を聞いてくれない可能性がありますよね。学習者の前提条件として、学習意欲の特徴をおさえる必要があります[1]。
(1)ARCSモデル
そこで、今回紹介するのが、ARCS(アークス)モデルです。ARCSモデルは、注意(Attention)、関連性(Relevance)、自信(Confidence)、満足感(Satisfaction)の英語の頭文字をとったもので、図1のように表されます[2][3]。学習者の学習意欲をデザインすることから、教育活動の魅力を高めるためのIDの理論として、活用されます。
(2)ARCSモデルの各側面の詳細
ここでは、ARCSのそれぞれの側面について詳しくみていきます。「注意」の側面では、目をパッチリ開けさせる、好奇心を大切にする、マンネリを避ける、といった工夫がヒントとなります。「〇〇はなぜだろう?」といった素朴な疑問を投げかけたり、オープニングに工夫したりすることで、おもしろそうだなと思わせることが大切です。
「関連性」の側面では、自分の味つけにさせる、目標を目指させる、プロセスを楽しませる、といった工夫がヒントとなります。生徒から、「先生、これを学習して何の役に立つんですか?」といった質問を受けたことはないでしょうか。生徒の興味関心や、身近な例に関連づけることで、学習したときにやりがいがありそうだなと感じさせることが大切です。
「自信」の側面では、ゴールインテープをはる、一歩ずつ確かめて進ませる、自分でコントロールさせる、といった工夫がヒントとなります。あらかじめ学習目標を提示して、過去の自分と比較して着実に進歩していることを実感させ、やればできそうだなと思えるような機会を設けることが大切です。そのため、いきなりテストを行うのではなく、失敗が許される状態で、練習の機会を設けることも重要でしょう。
「満足感」の側面では、ムダに終わらせない、ほめて認める、裏切らない、といった工夫がヒントとなります。学習者の努力の結果、学習目標に到達できたかを確認できる工夫をすることで、やってよかったなと思わせることが大切です。また、学習内容・目標・評価方法の整合性を高めて、一貫性を持つことが必要です。
これらのARCSモデルの側面は、どれか1つの側面が重要というわけではなく、なるべく全ての側面を盛り込むことが望ましいとされています。ただし、学習者の興味が既にある場合は、「注意」の側面ではデザインする必要がない場合などがありますので、学習者の状況に応じてデザインする必要があります。
さらに、ARCSモデルをヒントにすると、あなた自身の学習意欲もデザインすることができます。「注意」の側面では、素朴な疑問や驚きを大切にし、追究することや、ときおり勉強のやり方や環境を変えて気分転換をはかることが考えられます。「関連性」、「自信」、「満足感」の側面では、どのように工夫すれば良いでしょうか?是非、自分なりの工夫の仕方を見つけて、実践してみてください。