Vol.295教育の再構成③
新しい大学像を求めて~東京学芸大学の挑戦~

2026.05

1.大学像の変容
 大学は、中世ヨーロッパに誕生して以来、社会の変化に応じてその姿を変えてきました。
 現代の大学の原型は、19世紀初頭のドイツとイギリスで形成されました。フンボルト理念に代表される研究と教育の一致、学問の自由、教養の重視などを特徴とする近代の大学像、イギリスで展開してきたリベラル・アーツ(教養教育)を重視し、深い知性と広い視野を持つ紳士の育成を目的とした大学像は、現代の大学に継承されています。20世紀にはいると、大学の大衆化が進み、高等教育の普及率によって大学の性質は学問中心の指導層の育成から、大衆への専門教育や職業人の育成、さらに多くの人に開放された生涯学習や生活向上へとその役割が変化してきました。また、現代の大学は、その目的は単一ではなく、教育、研究、社会貢献など多様な機能を有する複合体となってきています。
 日本の大学は、これらの要素を吸収し、学問−実用、大学の自治−社会的責任、教養教育と専門教育の関係などをめぐる議論を経ながら、その内実が形成されてきました。

2.「大学の危機」の認識
 現在、大学の在り方をめぐる議論の中で、人口減少による18歳人口の減少や、テクノロジーの進化に伴うオンライン教育の普及やAIの進歩による教育研究の変化など、社会変動とも言える組織環境の中で、従来の固定的な大学像のままでは、大学は知の創造の中心であり続けられないことが明らかになりつつあります。
 第一には、急激な人口減少を背景に、人材育成は18歳~22歳で展開するだけでなく、社会人や現職の有職者等を含むリカレント層を対象に、広く展開していくことが予想されます<年齢的な開放>。第二には、企業等で新しい知が次々と生み出されるなど大学が知を独占することは困難となり、今後は、企業や地域、NPO等が密接に連携していくことが求められます<主体、連携の開放>。第三には、教育や研究の対象領域が、固定的な枠組に限定されず、教育課題や社会課題の解決に資するために、学際的に行われていくと考えられます<内容、領域的な開放>。第四には、ICT技術やAIの進展によりオンラインでの学びが普及し、空間的な自由化が進展し、自宅、地域、企業など学修機会や可能性が広く開放され、また、教育の内容や、参加手段もデジタル化によって大きく自由化されていくと考えられます<空間的、時間的な開放>。
 このような社会変動の中で、我々には、大学は重大な岐路に立っているという認識をもつことが求められています。

3.「学内完結型大学」から「社会的プラットフォーム型大学」へ~東京学芸大学の挑戦~
 東京学芸大学も危機意識を共有しています。それは、「従来型大学の危機」という認識にとどまりません。免許基準が実質的に引き下げられ、教員養成における私学の役割が量的に拡大し、教育人材の多様化が進められるなど「従来型の国立教員養成の危機」であり、公的な制約の中で人件費高騰、物件費高騰に国からの運営費交付金で対応せざるを得ない「国立大学の財政的な危機」についての認識です。これらの認識を背景にして、大学の将来像を考えた場合には、積み上げ型、学内完結型の思考からの脱却を図る必要があります。
 我々が目指すのは、時間、空間、プログラム、人材が柔軟に融合する「社会的プラットフォーム型大学像」への転換です。この新しい大学像によって、我々が実現したいこととは、●変化する社会環境に適応し、大学のミッションと組織を創造できること、●中長期的な持続可能性を確保するために組織として変化できること、●広く学内外の人材、教育研究資源を活用できること、●教育研究の領域の学際性、社会的課題の変化に対応できること、●教育研究のためのコミュニティが形成できること、●教育人材育成、研究開発、国際化のためのネットワークが形成できること、です。とはいえ、「積み上げ型」「学内完結型」から脱却することは容易ではありません。東京学芸大学の挑戦は、今、はじまったばかりです。

佐々木幸寿 学長 国立大学法人東京学芸大学
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