筆者が幼児の劇活動について考えるようになったきっかけは、二つあります。
一つは、幼稚園から依頼された劇の発表会にむけての研修でした。内容は、担任が劇活動で弾くピアノの指導でした。市販の音楽劇用挿入歌を弾けるようになりたい、CDにある曲を楽譜におこして弾けるようにしてほしいという依頼でした。そこでは、台本が先に決まっており、歌とせりふを幼児が覚えて発表会にむかうものでした。
もう一つの理由は、先生たちが劇の指導で困っていると聞かされたことです。特に新任者は、劇の題材の選び方、導入の仕方、発表会までの指導方法、目指す子どもの姿や発達に応じた到達目標、ふさわしい言葉かけ(できるようになってほしいと思えば思うほど口調がきつくなってしまう)、見ている人に伝わる手立て、舞台の使い方等課題は山積していました。
その時に、幼児にとって劇活動はなんのために行うのか、そのあり方を見失ってしまっているように感じたのでした。
そういった問題意識をもとに、子どもの主体性を大事にすすめている幼稚園と連携をし、劇活動について再度考えてみることにしました。2つの事例を紹介します。
【事例1】おむすびころりん(4歳児)
子どもたちは「おむすびころりん」の劇遊びが大好きでした。
そのきっかけになったのが楽器遊びです。子どもたちは、おむすびが転がって落ちる様子を「スライドホイッスル」、着地する音を「でんでん太鼓」でストンとたたくと提案しました。実際に動作と楽器の音を合わせることがとても楽しく、代わる代わる何度も繰り返し遊びました。
お気に入りの場面はもう一つありました。「ねずみのソイヤの踊り」です。保育者はわかりやすい言葉と五音音階による自然なメロディと簡単な伴奏を創作し、子どもの踊りに合わせながら弾きました。子どもたちは歌をすぐに覚え、自分たちで考えた踊りをとても気に入りました。さらに踊る時に持つ「ばち」が子どもたちにとって大事なアイテムとなり、自分のばちが欲しくて自主的に製作に取り組む姿がありました。子どもたちは遊んでいるうちにせりふを覚え、いろいろな役になり楽しんでいました。発表会がゴールではなく、発表後もこの劇遊びはしばらく続いたことが印象的でした。
【事例2】自分たちでお話をつくる(5歳児)
次に紹介するのは、5歳児が自分たちでお話をつくる取り組みです。子どもたちは16名で話し合い、「仲間を集めて冒険する」という大きな筋を決め、自分がやりたい役を申告し、細かなストーリーを決めていきました。お姫様、探検隊、怪獣、ペンギンが登場人物です。子どもたちは自分の役に対するイメージを明確に持っており、その役にあった衣装、小道具、大道具を作っていきます。せりふも自分たちで考えます。保育者は幼児のアイディアが実現できるように材料や道具を用意していました。保育者の投げかけとして大きかったのは、役が決まったところでいきなり「とりあえず、やってみよう」と声をかけたことです。ウッドブロックの音で子どもたちが歩き始めました。「次どうする?」と保育者が投げかけました。子どもたちは相談し、アイディアを出し合いながら即興的にすすめていきました。お姫様は怪獣に捕まってしまった、探検隊はどうやって助ける?怪獣がクイズを出すのはどう?ペンギンはどこで出てくる?怪獣はお姫様と友達になりたかったんじゃない?というように次々とお話ができていきました。子どもたちの思いがつまったオリジナリティのあるお話に仕上がりました。そして先生は「最後にみんなで歌ったり踊ったりしたらすてきじゃない?」と問いかけるとみんな大賛成で、みんなのよく知っている「パプリカ」の曲に即決定しました。タイミングよく先生が音楽を流すと一斉に踊り出し、仕上がりイメージが共有され、劇活動へのモチベーションが高まりました。その時の子どもたちの笑顔が印象的でした。
どちらの劇活動も子どもたちが主体となって、物語の世界と子どもが一体となっていました。保育者が劇中の音楽を即興的に演奏することにより、子どもに合わせる劇活動に変わりました。そして発表会においても、練習の成果やできばえを見せるだけでなく、劇遊びの様子や子どもたちの思いを伝える場にしたいものです。