他者と競い合うスポーツにおいて、体格が大きい方が有利そうだということは誰もが感じるところでしょう。ヒトの関節を動かす役割を持つ骨格筋は、“サルコメア”と呼ばれる構造が連なった筋原線維というもので構成されており、このひとつひとつのサルコメアの同時収縮が筋全体の収縮となります。すなわち、筋が長い人はサルコメアが多く連なっているため筋全体の収縮距離が大きくなり、その結果単位時間あたりの筋の収縮速度も大きくなります。例えば脚が長い人は、ストライド(1歩あたりの距離)を大きくできることに加えて、このような筋の物理学的構造上でも速く走ることに有利であると言えるのです。さらに言えば、体格が大きな人は大きな筋を有することで大きな力を発揮することができ、それに伴って体重も重いことで相手選手との接触や衝突にも有利になることができるのです。
図2は、現在サッカーのJ1リーグに所属するチームの下部組織に所属する小学3年生から同チームのプロ選手までの51名のインステップキックシュートの実験データを示したものです。横軸は計算から導き出した蹴り脚の質量、縦軸は蹴り脚の持つ運動量をどれだけ効率良くボールに伝えられたかを表す指標です。これを見ると、蹴り脚の質量が大きい(≒足が大きくて重い)選手ほど、その運動量を効率的にボールに伝えて速いボールを蹴ることができています。また、特に蹴り脚の質量が小さい選手(赤の点線で囲んだ小学3年生の2名)は、インパクト効率が著しく低値を示していることも見て取れます。これは、発育途中のサッカー選手はボールの重さに対して足が軽いため、いくら蹴り足を速くスイングできたとしてもボールにうまく力を伝えられず強いボールを蹴ることが難しい可能性があることを示しています。
筆者が専門としているサッカーでは、体格の大きな選手が相手のチャージをものとしない力強いドリブルからロングシュートを放ち、身長の高くないゴールキーパーの頭上を越えてゴールするような場面が、特に小学校年代においてしばしば見受けられます。こういったプレー自体には何の問題もありませんが、そのような選手が目先の勝利のためにコーチから重宝されがちであることも事実でしょう。しかし、このような体格に由来する有利・不利は、完全にはなくならないまでも加齢(成長)に伴って小さくなっていく場合が多いです。我々大人は、体格の小さな子どもにはパワーで負けることがあっても今は焦らないこと、体格の大きな子どもにはそれに頼らず技能や知性を磨くこと、そして何よりも全ての子どもがそのスポーツを楽しみ、好きでい続けられることに主眼を置いて子どもたちのスポーツ活動を支えたいものです。