Vol.202CREDUON FOR TEACHERSのこれまで 今を生きる子どもたち ―VISION 200回記念特集―③
今、合唱活動を再考するヒント

2020.11

 「のぶさん、こんにちは!」。外部指導者として関わり始めて5年目となる都内中学校の合唱部は、いつも子どもたちの笑顔で溢れています。「のぶさん」という呼び名は、5年前、初めて子どもたちの前で自己紹介をしたときにつけてもらった筆者のあだ名で、代が変わっても受け継がれています。

 今年度、初めて子どもたちに会えたのは8月下旬のことでした。2月に活動を中断して以来、半年ぶりの再会です。音楽室には、合唱時に使用するための立ち位置を表すテープが貼られ、窓は開放、こまめな手洗い、うがいが徹底されていました。半年間の空白を埋めるように顧問から今年度の子どもたちのあゆみや、部活動を実施する際のルール(感染症対策を含む)を伺い、まずは子どもたちの実態に即したマスク等の検討から始まりました。結果、子ども間の距離は十分に保ちながら、歌唱時はマウスシールドを着用することとなりました。子どもたちが当初示していた違和感は日が経つごとに薄まり、自然にマウスシールドでの歌唱が日常と化していきました。

ソプラノのパート練習の様子

 今年は合唱に関する様々なイベントが中止となり、「新しい合唱様式」への適応も求められました。これから先、いましばらくはこの状況が続くことが予想される昨今ですが、そうした今だからこそ、合唱活動によって期待される学びと慎重に向き合うことが求められています。つまりは「合唱を通した学び」について、今一度、整理をしておくことが重要なのではないでしょうか。ここで言う「合唱を通した学び」とは、「もっと高い声が出せるようになりたい」、「遅刻せずに部活にいこう」という「私」を中心にした学びの視点、「〇〇さんのような声が出せるようになりたい」といった「他者」との関わりによって得られる学びの視点、「この曲のこの部分の良さをなんとかお客さんに届けたい」といった「作品」との関わりによって得られる学びの視点、さらにこれらを一段広い目で見たときに、この3つが織りなすことでつくられる豊かな合唱環境を通して得られる学び全体を指したいと思いますが、大人数の合唱ができなくなったり、マスク等を着用したうえでの合唱にならざるを得ないからこそ、子どもたちに合唱を通して提供したい学びはなにか、再整理し、焦点化し、戦略的に提供できるような新しい視座こそが、今の子どもたちとの合唱活動を前向きに捉えるためのヒントになると考えています。

 コロナ禍でもたくましく、思いやりをもって合唱に取り組む子どもたちの姿からは、従来の合唱への回帰のみではない、今日的な「合唱と学びの再考」が問いかけられています。

東京学芸大こども未来研究所 専門研究員
CREDUON FOR TEACHERS 編集長
小田直弥
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