今回は「水辺に生きる」と題し、いつも私の隣にある“水辺”を3つの角度からご紹介したいと思います。 第1回は、私のフィールドである北海道北部の水辺をエッセイでご紹介します。
道北のゆるやかな湿原河川は、ミズバショウが一斉に咲く雪解けを過ぎると、短い夏を迎えます。冬の間、雪の重みで倒れていた水辺の植物たちもすっくと立ち上がり、生命力に溢れる森。林道から青いにおいが煙る森へと入り藪漕ぎ※注1)を続けると、森の中を流れる小さな川に出会います。周りの木々や土と一体となっているような穏やかな川の音。ひんやりとした空気を一層纏った水辺に立つと、清涼感と開放感に包まれます。
初夏から秋にかけて、川の中を上流へと歩くのが私のライフワークです。
さわさわ。ガサガサッ。川岸の植物が鳴る音がきこえます。風で揺れる植物の音であるときもあれば、動物の動きによる音のときもあります。近くにエゾシカやヒグマがいるときは、獣のような“野生”の匂いが漂い、理屈ではない動物としての感覚を揺さぶられます。そっと息をひそめ、植物の陰に身をひそめます。こんなとき、私も動物なんだなと実感します。
水辺にある動物の足跡や植物の食み跡からは、訪れた動物を思い描くことができます。キタキツネ、タヌキ、アライグマ、エゾシカにヒグマ… たくさんの動物たちが水辺を利用します。
夏は川がもっとも活気づく季節。
しばらく川を歩いたら、川の中をのぞいてみます。川辺に寝転がりそっと川の中を観察するもよし、水中めがねをつけてそのまま川に顔をつけるもよし、防水カメラで撮影してみるもよし。
川岸の木の根や水際の植物の下には、まだ小さいイトウやヤマメの稚魚が身を隠しています。深い淵に横たわる倒木の下には、ウグイやサクラマスの群れが休憩中。水際の植物や水中の倒木は、生き物の隠れ場や休憩場、避難場になっているのです。
こんなふうに生き物に囲まれ、心地よい川の音や森のにおいに包まれて過ごすと、私の体や心は川や森に溶け、じんわりと満たされてゆきます。
みなさんも、森を流れる川を歩いてみませんか?
次回は、道北を中心に行ってきた回遊魚の生態研究の一端をご紹介します。