Vol.204「学校から職場への移行期」の教育を考える②
アジア諸国と日本のキャリア・職業教育

2020.12

 前回は、欧米と日本のキャリア・職業教育の違いについて述べましたが、今回はアジア諸国との違いについても触れていきたいと思います。筆者は2016年九州大学第三段階教育研究センター主催の国際学会に参加させていただく機会を得ました。日本とアジア諸国間の第三段階教育(日本でいうところの中学高校以降の高等教育を意味します)におけるTVET(技術・職業教育及び訓練)が議論されました。その中で、第三段階教育修了者に対して技術資格や技術を示す学位をアジア共通のものとした認定制度を作ることで、技術者の労働移動をアジア諸国間で活性化できないだろうかという内容が話し合われていました。アジア各国の推進的な議論の中で、日本側が難色を示していたことが印象的でした。

 このアジア諸国間の連携の動きは、ヨーロッパ諸国のボローニャ・プロセスを受けてのものであろうと考えられます。ボローニャ・プロセスとは、1999年にヨーロッパ29か国の教育相がイタリア・ボローニャに集まり、域内の労働移動を促進するために、各国の様々な職業資格や学位を標準化し比較可能とすることを合意したことから始まります。3年後の2002年には、各国の職業資格や学位を8つのレベルからなる欧州資格枠組み(European Qualification Framework: EQF)に当てはめて標準化することも決定されました1。アジア諸国は、欧米による植民地時代を経て、職業教育に関して欧米にかなり準拠していると思います。

 しかし、日本においては、就職後企業内において技術教育がなされる文化があることから、企業横断的な職業訓練制度は不在です1。それだけではく、中等教育高等教育とも進級や卒業の難易度がそれほど高くないこともあり、学位や資格が技術力を証明しているものとは企業から認識され辛い実情もあります。かといってそれが日本の新卒採用の秩序を乱すわけではなく、機能してきたことも事実です。

 ところが、コロナ禍の影響で、日本のある意味緩やかなキャリア教育が、変化せざるを得なくなっているようです。企業によるジョブ型雇用へのシフトです。次回は、これからの日本のキャリア教育への展望を考えていきます。

[引用文献]
1山内麻里 (2019). 「各国の教育訓練システムの特徴」,『欧州の教育・雇用制度と若者のキャリア形成 国境を越えた人材流動化と国際化の検討』 白桃書房

産業能率大学 准教授
番田清美
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