Vol.163「オリンピック・レガシ―」③

2019.10

 この歴史的快挙から学べることは、銀メダルを取ったという事実だけではありません。無理かもしれないという事に挑戦し、古くから探究されてきたバトンパスという技術を見つめ直し、最先端の科学技術を駆使しながら可能性を見つけ、自分たちにあったバトンパスを探求し、それを試し繰り返し練習し、そして大舞台で発揮したという全てが学ぶべき内容ですし、「レガシー」と呼ばれる意味なのでしょう。
 この快挙は、選手4人だけでなく、これまで挑戦してきたアスリート、分析者、トレーナーやコーチのような支える人たち、様々な知が結集してチームとして成し得た快挙です。

 現在、小学校中学校ではオリンピック・パラリンピック教育を行っています。
子どもたちが快挙の裏側にある事実を知ること、学ぶこと、影響を受けることには大きな意味があると思います。
 あきらめずに挑戦し続ける姿から勇気をもらえるかもしれません。挑戦し続けることで、技術は進歩し人間の限界は越えられる、ということは、生きるエネルギーにつながるかもしれません。

 大西さんは付け加えます。この快挙の裏には、4人の選手それぞれが、その年に自己ベストを更新していたのだそうです。歴史と最先端の科学技術を駆使し、チームで限界に挑戦し、そして一人一人が努力を続ける、その結果「快挙」が生まれ、それがレガシーになっていくのでしょう。

 2020東京オリンピック・パラリンピックで、どのような競技が繰り広げられ、どのような感動を得られるのか楽しみです。
 そしてどんなレガシーが生まれ、その後どんな世の中になっていくのでしょうか。
私たちとスポーツとの関わりも変わっていくかもしれません。

 学校における体育科では、体育のものの見方として「する」「見る」「支える」「知る」が挙げられています。
 「する」は文字通り、スポーツを楽しみながらすることです。
 「見る」は観戦です。テレビや競技場でオリンピック・パラリンピックを見ることでたくさんの感動を得られるでしょう。
 「支える」は、スポーツをする人をサポートしたり運営したりする関わり方です。
来年は、ボランティアとして関わる人も多いと思います。
 そして「知る」とは、スポーツの文化や歴史や科学の成果を知ることです。快挙の裏側にある事実やレガシーについて知ることもこれに当たります。

 今回は自国開催です。「する」「見る」「支える」「知る」がより豊かに実現するでしょう。何らかの場、何らかの方法で、自身が関わることができる可能性が感じられるオリンピックになるはずです。
 そうであるなら、選手からレガシーを受け取るだけでなく、私たち一人一人が自分の中にオリンピック・レガシーをつくっていけるのかもしれません。

 オリンピック・パラリンピックの開催期間を経て、今の自分とは少し違う自分に変容するかもしれません。変容実感や変容していくのであろうきっかけも、レガシーの一つだと思うのです。

 私は、先述した体育・スポーツの見方・考え方に「つくる」を加えていくといいと思っています。2020東京オリンピック・パラリンピックを通して自分の中にレガシーが創造されるのであれば、それはスポーツを「つくる」ことになるのかもしれません。

東京学芸大学 健康・スポーツ科学講座 教授
鈴木 聡
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