第3回は「読書」を取り上げ、デジタルもアナログもどちらも使えるバイリテラシーの育成を目指したいことをお伝えします。
1)現在の読書活動の課題から
そもそも「読む」という行為は、デジタルであろうが紙であろうが変わりません。始まりは「ことばを獲得すること」「文字を読む」こと。これは先天的な能力ではないので、成長に合わせて子どもたちは獲得していかねばなりません。その観点から、現在の学校の読書活動の課題を取り上げ、私が希望したい4つのことを申し上げます。
1つめは時間の確保です。「図書の時間」「読書の時間」や「全校一斉読書活動」は、学校裁量の時間であって、すべての学校で実施されているわけではありませんが、めあてとねらいをつくって確保してほしいです。読書の効果は目に見えてすぐ出るものではなく、生涯にわたって醸し出されてくるものです。生涯学習者としてのリテラシー育成として、読書カリキュラムを考えてほしいと思います。
2つめはノンフィクションの読書の奨励です。図1(1)は2018年のOECDの学力調査から分析されたものです。学校図書館のコレクション自体が物語や小説に偏る傾向がまだ残っています。
3つ目は短編から中編・長編へ、または名作やロングセラーの作品への挑戦の機会を作り、レベルアップを図ることです。海外の翻訳作品は歴史や社会的な背景を書き込み、自我の芽生えや人間の内面に深く踏み込んだものも多く、子どもの成長と多文化理解を促します。翻訳絵本に続く読み物として薦めてください(2)。大学で学生に聞くと担任や学校司書の絵本以外の読み聞かせも多く記憶に残っているようです。冊数で読書評価をしていると、薄いものしか読まなくなります。その子なりのペースもあり、長編に挑戦する機会を奪うので、違う評価や調査を試みてください。出版界の苦しい事情もあるのでしょうが、「未来の読み手をみんなで育てる」視点を持ってほしいと思います。
4つ目は「ひとり読み」ができるように支援することです。読み聞かせを聞くのが大好きだった子に読書嫌いがでてくる小学校中学年は、抽象的な言葉も増えて読書のハードルが高くなる時期です。確実に文字が追えて発音でき、言葉がわかり、文章や文脈が理解できるようになっているでしょうか。小学1年生の1学期には「指読み」といって、彼らの「読むチカラ」に見合った本が選べるようにして、一文字ずつ指で文字をなぞりながら小声を出して読み込んでいくという実践もあります(3)。教員と学校司書が確認をすることで、読むことが困難な子どもを発見しやすくなります。バリアフリー図書(4)やオーディオブック、読書補助具などを用意して対応します。中学年以上で気づいたときにこそ大人の手助けが必要です。小声の指読み、2人ペアでの読み聞かせや意見交換しながら読むなどの手立ての工夫もあるでしょう。「ひとり読み」を促す中編・長編小説の連続読み聞かせは、担任教員の醍醐味です。「声」の支援も重要なのです。日本語指導が必要な子どもや家庭には「やさしい日本語」(5)でのサポートとともに、担当教員と読書材を選ぶ対応も学校図書館は行います。2024年6月「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及促進等に関する法律」(通称:教科書バリアフリー法)が改正されて、これまでは障害のある児童及び生徒のみだった教科書のデジタルデータが「日本語に通じない児童及び生徒」にもつかえるようになりました。
2)デジタルに慣れる
これらの読書がすべて紙の本でなければならないと思うのは、これまで人生の大半をアナログで過ごしてきた大人のノスタルジーです。コロナ禍以降デジタルバッシングが減ったものの、電子書籍や電子教科書が子どもの生活になじむには、まだまだ訓練と時間が必要です。現時点で千年以上慣れ親しんできたメディアと使い始めてまだこなれないメディアの単純比較で結論を急いではならないでしょう。子どもの発達段階を考えて、どの時期にどのメディアをどのように使うのがよいのか、系統立てて考える必要があります。
ネット情報に【加えて「図書」】も使う実践が先進事例としてあげられていました(6)。ICT活用と読書活動の充実を共に図る学校です。どちらも使える環境で学ぶ子どもたちはメディアの特徴を活かした使い方ができるようになるのです。また、「読む」には文字だけではなく、写真や絵を読む、図や表を読む、数字を読むなども、学習活動、情報活用能力として必要です(7)。そのような指導を学校全体ができるように研修も図っていきましょう。
3)デジタルとアナログのバイリテラシーを育む
米国で読字やディスレクシアの研究をするメアリアン・ウルフは、二か国語を自在に使いこなすバイリンガルがどちらの言語でも深い思考ができるように、多様なメディアでも深い読みができる「バイリテラシー読字脳」の育成を提案し「どちらの媒体に関してもできれば同レベルで流暢になってほしい」といいます。小学校低学年を重要な時期ととらえ、ゆっくり読むことで考えるという深い読みができる印刷媒体の手法を獲得していれば、その後、生涯にわたってデジタルでも深い読みができるようになる可能性があるとしています。その実現のためには「媒体が及ぼす影響の調査」「専門家の研修と育成」「利用機会と関与の格差」の3つが課題であるといっています(8)。
おりしも、2025年4月「IFLA-UNESCO学校図書館宣言2025」(9)が公開されました。これは1999年に批准された「IFLA-UNESCO学校図書館宣言—すべての者の教育と学習のための学校図書館」で示した学校図書館の国際ビジョンをテクノロジー・社会・教育の変化に合わせて改訂したものです。まもなく正式な日本語訳も公開されるでしょう。ぜひ、読んで広め、実現していただきたいと思います。