ここからの3回の連載をとおして、拙著『体験活動はなぜ必要か-あなたの可能性を引き出し人生を輝かせるために-』(東京学芸大学出版会)の要点について紹介します。普段あまり意識することのない、しかし誰もが日々何かしらをしている「体験」が、私たちの成熟をうながし豊かな生を創造していく源泉であることについて共有させていただきます。
この第1回目では、幼少期からより多様な体験をもつことが、心身の成長にとって良い影響をもたらすことについて説明します。早速、次の調査結果(図表)をみてみましょう(20~60 歳代の成人5,000人を対象:各年代・男女500人)*。
まずグラフの方ですが、子供の頃の体験量が多いほど、大人になってからの資質・能力が高い傾向にあることを示しています。次に表は、グラフについての内容を表すものです。つまり、グラフにおける体験はどんな活動なのか(縦軸)、資質・能力は何の要素なのか(横軸)を示すとともに、各体験活動と資質・能力における相互の関係性についての統計的な結果となります。数字の右肩に「**」が付いているのは、両者の関係には統計学的に意味のある関係にあることを表しています。たとえば、子供の頃の「自然体験」が多いほど、「自尊感情」や「意欲・関心」も高くなることが、この場合でいえば99%(**p<.01)の確率で統計学上そう言えるということを意図しています。そうしてみると、すべての体験活動と資質・能力の両者の関係性において、「〇○の体験活動が多いほど、□□の資質・能力が高い」傾向にあることが実証されていることなります。これらを総じて示しているのが、先のグラフなのです。
一方で、この結果を反対側からみると、子供の頃の体験が少ないほど、その後の成長にともなって養われる資質・能力は低い傾向となることが示唆されるでしょう。実際、戦後以降、青少年の体験の機会の減少に起因する健全な成長への負の影響が指摘されています。
このように、幼少期からさまざまな体験を積み重ねることは、私たちの潜在能力を引き出し開花させ、より良く生きていくために欠かせません。これは、良い作物を育てるためにはいい土が必要で、その土を作るためにはよく耕すのが大切なことに例えることができます。
良い作物を作るために土をよく耕すということは、人が色々な体験をして、自分の心と身体を育んでいくことと同じです。その耕された土が良い作物を育てていくというように、私たちがより多くの体験を積み重ねることで、自分という人間性を磨きながら、己のもつ可能性を引き出して、大きく成長・進化していくことだと考えます。
次回2回目では、豊かな生を創発させていくそのような体験活動において、その実践の中で力を引き出し伸ばすために、どう考えて行うのが有効なのかについてお話しします。