Vol.136コンピテンシー・ベースの教育で求められる「評価」③
自己調整学習

2019.01

 学習目標の設定や学習方略の選択に加え、学習の経過を適切にモニターし修正を行うといった「メタ認知」、学習意欲の維持に関連した「動機づけ」、さらには学習結果の自己評価などの問題に適切に対処する「行動」といった自己調整機能をうまく働かせながら、学習者自らが学習を進めていくあり方は、自己調整学習と呼ばれています。急速な変化を遂げる現代社会においては、この自己調整学習に関わる教育実践のあり方に大きな関心が寄せられています。

 自己調整のできる上達した学習者を育てるヒントについて、授業実践を例に考えてみます。

図 授業実践例にみる自己調整のできる上達した学習者を育てるヒント〔黒澤(2014)をもとに作成〕

 図中の下線①の「言葉かけ」の中には、子どもの自己調整を促す上で効果的で機能的な、次の4つの「手続き的知識」を帰納的にみてとることができます(黒澤、2014)。

 1つに、子どもの言葉「『あ、同じ」だって。』と、繰り返すように「同じ」を再生し紹介しています。これは、価値ある子どもの言葉を紹介し強調する「紹介リボイス」と呼ぶ「言葉かけ」です。

 2つに、「『同じ』に気付いた。いいことに気付くね。」と、先生が子どもに、気付いたこととともにその能力をもフィードバックしています。「同じ」に着目して考えたその能力を肯定的に強調して返す「思考力フィードバック」(能力帰属フィードバック)です。

 3つに、「何が同じ?」と、先生が子どもに、「同じ」の主語を明確に求めています。主語を明確にすることで、数学的に集合の元(要素)を求めること、さらに概念の外延を求める「求語求問」(主語を求める問いかけ)です。

 4つに、発言した子どもの名前をきちんと挙げ、他の子どもたちに投げかけています。子どもを尊重する気持ちが伝わるとともに、「自己効力感」をも鼓舞する「氏名挙げ」です。

 さらに、教師の「言葉かけ」は、図中の下線②、③、④と子どもたちとの対話のなかで展開していきます。教師による、授業における効果的な対話の展開の仕方、問いの立て方の追求が、子どもたちの対話を展開する力、問いを立てる力を向上させる前提条件となるのです。

 最後に、子どもたちのメタ認知能力、自己調整する力を高める上で、教師自身が授業で繰り広げられた言動をふり返る機会をもつこと、すなわち、教師自身のメタ認知能力、自己調整する力を向上させることが重要であることを指摘しておきたいと思います。

東京学芸大学准教授 梶井芳明
参考・引用文献
黒澤俊二(2014)「教師の『言葉かけ』を減じていく学び合う教室をめざして—子どもを誘発する機能的で帰納的な4つの手続き的知識の一事例—」新しい算数研究、 525、 4-7.
梶井芳明(2017)「コンピテンシー・ベースの教育に向けて:メタ認知と自己調整学習から考える」羽野ゆつ子・倉盛美穂子・梶井芳明(編著)『あなたと創る教育心理学:新しい教育課題にどう応えるか』pp.144-155、 ナカニシヤ出版
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