Vol.043子どもの貧困と学校②学校の持つ可能性

2016.06
 学校とはどんな場所でしょうか。日本では、基本的にすべての人が小学校、中学校に通います。学校という場には、6歳から15歳のすべての子どもが集まるわけです。この当たり前の事実、よくよく考えてみると、すごいことだと思いませんか?そんな場が、他にあるでしょうか。
 すべての子どもたちが、学びを通じて能力・可能性を最大限に伸ばし豊かな人生を実現できるように、そして、いまを安心して生活することができるようにするために、学校にできることはたくさんあります。その中でも、最近になって特に注目されるようになってきているのは、福祉的な視点での子どもとの関わりです。
 現在、経済的に困難な状況にある子どもたちのために、様々な支援の取組や制度が充実してきています。こうした様々な子ども支援の資源に「つなぐ」ことが、子どもと最も身近で接している学校ではできるのです。
 さて、学校の先生は、日々子どもと関わる中で、困っている子どものサインを常に見逃さないように努力されていることと思います。以下は、小・中学校の先生方が、子どもの貧困の状況をどのようなところで感じ取っているのかについての調査結果です。

43_pic_01
図 「生活資源の不足」を知る手がかり※


表 「生活資源の不足」を感じる場面※

43_pic_02
(回答数は264、人数は延べ人数である)


 これらの調査結果をみると、学校の先生方は、特に学用品に関することや、児童・生徒の服装、お風呂に入っているか否かといったことがらによって、子どもの生活資源不足の状況を感じ取ることが多いようです。また、中学校3年生の学級担任の先生からは、「公立高校のみを受験した生徒」や、「奨学金や貸付金の手続きを必要とした生徒」という、進路選択の場面に関係したことがらによって把握しているという回答が得られました。この調査は、ある限られた地域の先生方を対象として行われたので、一概にこの結果が全てであるとは言えませんが、今後より様々な地域を対象として精緻な調査分析を重ねていくことによって、学校の先生方が子どもの貧困サインに気づくためのポイントが明らかになっていくことでしょう。
 また、「チームアプローチで支える子どもの育ちと暮らし」(東京学芸大学<子どもの問題>支援システムプロジェクト)のように、子ども支援のための社会資源がリストアップされ、支援者が貧困やその他様々な困難を抱える子どもたちを支援のための資源とつなげようとする際に活用できるガイドブック等も作成されています。
 こうしたこれまでの研究成果を踏まえながら、今後、東京学芸大学では、特に貧困という問題に特化して、学校の先生方に向けて、子どもの貧困に関係する困難な状況の把握の仕方と、その支援のための校内、校外資源との連携・協働の仕方を具体的な実践場面で活用できるような形でまとめたガイドブックを作成する予定です。
 このような取組を通じて、学校の先生方が、より子どもとの関わりを多面的、重層的に行っていただけるようなサポートができたらと思っています。
※本文中の図・表はいずれも『経済的に困難な家庭状況にある児童・生徒へのパッケージ型支援に関する調査・研究プロジェクト 平成27年度報告書』「公立小中学校の教員による児童・生徒の経済的困難の見立て方と対応」(林 2016)より引用したものである。
(東京学芸大学パッケージ型支援プロジェクト http://ccss.tokyo/)
東京学芸大学特命助教
田嶌大樹
pdfをダウンロードできます!