Vol.263先生だって学びたい!① 凸凹の組織

2024.08

 教員の学びを取り巻く環境

 2022年5月、「教育公務員特例法及び教育職員免許法の一部を改正する法律」が施行され、教員免許の更新制度が発展的に解消されました。正直、多くの方が「一体何だったんだ?」と思ったことでしょう。遡ること半年、2021年11月に中央教育審議会特別部会より「『令和の日本型学校教育』を担う新たな教師の学びの姿の実現に向けて」という審議のまとめが発表されました。「『新たな教師の学びの姿』の実現」と「多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成」の2つが掲げられ、現在、教師の新しい学びの姿の模索が行われています。1回目の今回はこの2つ目の「多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成」について考えてみたいと思います。

 

 教員集団の多様性?

 「多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成」の説明として、「学校組織のレジリエンスを高めるために、教職員集団の多様性が必要。」と示されています。一方、文部科学省は「教師に求められる資質能力の再整理」(図1)として教員に求められる資質・能力を提示しており、これに従い各都道府県の教育委員会が教員研修を綿密に組み立てています。高度な資質・能力のモデルを設定し、そこに到達させるための教育を行う(私には子どもにも同じことをしているように思いますが、それはまた別の機会があれば考えてみたいと思います。)この方法で果たして多様性は生み出されるのでしょうか。また、教員集団は「教員免許を持った人の集団」であり、そもそも多様性を生み出すことを前提とした集団としては形成されていません。公教育は全国の児童生徒に公平に行われる必要があるため、教員全員に一定の資質・能力が求められるのは仕方のないことだと言えますが、教育委員会が提供する研修をみんなで受講するという学びでは、多様性は生み出されないのではないでしょうか。
 教員集団の多様性を実現するには、これまでのように資質・能力がフラットな集団ではなく、凸凹の集団を形成していく必要があります。「理科の実験なら、私に任せてください!」「生徒のキャリアの相談なら私の右に出るものはいない!」「おもろい、クラスづくりには定評があります!」というような、各先生がそれぞれに得意技を持って、それをのびのびと発揮し、足りない部分は補い合うような凸凹の集団です。では、凸凹の集団を実現していくための学びの姿とはどんな姿なのでしょうか。
 それは「個別最適な学び」ということになるのではないでしょうか。先生一人一人が学びたいことを、学びたい時に、学びたい方法で学ぶことで、それぞれの得意技を磨いていく。次回は、この個別最適な学びをどのように実現していくのかについて考えていきたいと思います。

 
図1 教師に共通的に求められる資質の具体的内容

[引用]図1:教師に共通的に求められる資質の具体的内容
文部科学省 公立の小学校等の校長及び教員としての資質の向上に関する指標の策定に関する指針(令和4年8月31日改正)公立の小学校等の校長及び教員としての資質の向上に関する指標の策定に関する指針に基づく教師に共通的に求められる資質の具体的内容, https://www.mext.go.jp/content/20220831-mxt_kyoikujinzai01-000024760_3_4.pdf


東京学芸大学 教授
金子嘉宏
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