Vol.304発達障害を考える③
支援要請と自己理解

2026.11

 前回、発達障害児が自分の特性とのつき合い方を心得ることが大切だとお話しました。その自己理解について、もう少し話題にしたいと思います。

 特別支援教育が開始されてから20年近くになりますから、通常の学級における支援も、その間、学校教育の中に根付いたと思われます。義務教育を経て、最近では高等学校に至るまで特別支援教育のシステムが、発達障害児を支える役割を担っていると言えます。では、高等学校の卒業後はどうでしょうか。発達障害は、脳の情報処理における多様性として語られることがあります。つまり、適切な教育によって抱えている困難を軽減することができても、その特性は「治る」ものではなく、生涯にわたって付き合っていくものなのです。成人になったから、突然困難さが消失するものではありません。

 日本学生支援機構の調査によれば、大学等の高等教育に進学する障害学生は年々増加傾向にあります[ 1] 。障害種別に見てみると、身体障害と比較して、発達障害学生の増加は著しいものがあります。それでは、高等教育においても、特別支援教育は行われているのでしょうか。答えは否です。障害学生の増加とともに、各大学等では、障害学生支援の部署を置き、学生生活において発生する障害ゆえのバリアを取り除く諸々のサポートをしています。しかし、このサポートを障害学生が受けるためには、学生自身による支援要請が第一歩になるのです。障害のある者が、情報にアクセスしたり、活動に参加したりする際に生じるバリア(社会的障壁)を取り除くための理に叶ったサポートを合理的配慮と言いますが、どのようなサポートが、その人にとっての最適解なのかを見定めねば合理的配慮を行うことはできません。また、教育機関である大学では、単に活動に参加することが目的となるわけではなく、単位や免許の取得などが目的となるため、困難さにつながることを全て免除すればよいというものでもありません。

 適切な支援を求めるには、支援を要請する者(障害学生)と合理的配慮を提供する者(授業担当者等)との間で、建設的対話を経て適切な着地点を定める必要があります。そのような際に障害学生自身が、どのような活動においてバリアが発生し、どのような対応でバリアを軽減あるいは消失させることができるかを心得ていることは、とても重要なことなのです。

 高等学校までに受けてきた特別支援教育や合理的配慮を通して自分の特性との付き合い方を学び、次のステップでは能動的に支援を要請して、自分の道を切り開いていけるようにすることが、支援教育のゴールなのではないでしょうか。そのゴールを見据えた上で、学齢期のそれぞれの段階での支援計画や指導計画を立案していくことが大切なのだと思います。

 今回も最後にエピソードを紹介しましょう。大学内の障害学生の支援部署で相談対応をおこなった学生Bさんのエピソードです。Bさんは入学してすぐに相談に訪れました。ADHDの傾向(不注意など)が強く、高校時代まで大変な苦労をしたそうですが、能力の高さと前向きな性格で切り抜けてきたということでした。Bさんの夢は、教師になり学校現場で支援教育を通して発達障害児等の良い理解者になりたいというものでした。そこで、まず、自分自身への支援計画を考えることを提案し、第一段階として自身の実態把握をおこなうことにしました。Bさんが自分の行動の傾向を客観的に記録する一方、支援部署において検査や面談によるアセスメントをおこない、その結果に基づいて自己理解を深め、自分への支援を検討しました。

 アセスメント結果の詳細はここでは省きますが、不注意や忘れ物、失くし物を防ぐために、自分の認知特性や行動の傾向を考慮して、①情報や持ち物はできるだけ一元化すること②情報をできるだけ視覚化すること等を自分への支援方針の主軸にすえて、支援者と共に様々な工夫をおこなったところ、自分の困難さとの付き合い方が見えてきたとのことでした。困難さの背景がわかると、不安や劣等感も軽減されたようでした。本人の努力も大きかったのでしょう。4年間で学業を修め、現在は夢を実現させて教員となり、日々頑張っているようです。

 勿論、障害特性と上手に付き合っていくことは容易なことではありません。本人も支援する者も壁にぶつかって苦しむこともあります。しかし、どの児童、生徒、学生にも、困難さだけではなく自分の強みも含めた自己理解や障害に関する正しい知識を得て、能動的に人生を歩んでいってもらいたいと思います。そして、それを実現するために支援教育が尚一層大きな役割を担っていければと思います。

東京学芸大学
学生支援センター/教職大学院
小林 玄
【参考資料】
[1] 独立行政法人日本学生支援機構 「障害のある学生の修学支援に関する実態調査 令和7年度(2025年度)調査結果
https://www.jasso.go.jp/statistics/gakusei_shogai_syugaku/index.html(2026年8月20日参照)
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