「なぜ?」「どうして?」と問い続けること―私はこの積み重ねが、人をつくると思っています。答えをすぐに求めるのではなく、むしろ「答えなんてそもそもないんだ!」という気持ちで、自分なりに問い続け、学び続けていくこと。それが、自分自身を豊かにしていく原動力になると、これまでの教育実践の中で強く感じてきました。
私は、神奈川県内の公立小学校で10年間勤務しました。「問い続けること」の楽しさに気づかせてくれたのは、子どもたちと取り組んだ「総合的な学習の時間」でした。教科書や指導書に載っていることを教えるのではなく、自分たちで物語を創っていく学び。子どもたちと共に考え、共に調べ、共に話し合い…少しずつ学びが広がり、深まっていく。答えがわかっていることを教えるなんて、つまらない!答えがわからないからこそ、本気で考え、打ち込める。そんな、先の見えないリアルな学びのドキドキワクワク感に、すっかり夢中になってしまいました。
その後、縁あって横浜国立大学附属鎌倉小学校へ異動し、生活科・総合的な学習の時間を軸に、子どもたちの探究心を引き出す実践に取り組みました。歩いて行ける場所に海があり、山がある。山から海へと川が流れる。道を歩けば、神社やお寺、石碑が至る所にある。少し歩くだけで、「これは何だろう?」「どうしてここにあるのだろう?」と、次々に問いが湧いてくる。鎌倉は、まさに「教育材」の宝庫でした。
この場所なら、子どもたちと共に「問い続け、学び続ける」場をつくれるかもしれない。いや、つくってみたい!そんな思いが膨らみ、私は教職を離れ、鎌倉にNPO法人『マナビノキ』を立ち上げました。
現在は、鎌倉市内で2つのアフタースクールを運営しながら、週末には鎌倉の「人・もの・こと」を題材にした探究ワークショップを開催しています。子どもたち一人ひとりの「問い」から始まり、「知りたい!やりたい!」というマナビノタネをマナビノキに育てていく。そんな思いで、フィールドワークや実験、ものづくりなどの体験を重ねています。
このような思いで立ち上げた「マナビノキ」も、今年で丸5年が経ちました。変わらず、日々子どもたちの「問い」は、私に新たな学びをもたらしてくれています。
ナスが苦手だった2年生。「どうしてぼくはナスが嫌いなんだろう?」「自分で育てたナスなら食べられるかな?」という問いをもち、自らナスを育て、収穫して食べたところ、「こんなにナスがおいしいなんて知らなかった!」と、嬉しそうに話してくれました。それ以降、その子は「野菜の甘さや糖度」に興味をもち、さらに調べていきました。
また、6年生の子は、不安を感じやすい自分に向き合い、「どうして人は不安になるんだろう?」という問いをもちました。脳の中の「扁桃体」の働きについて調べ、自然(空や海)を見たり、鏡の前で笑顔をつくったりすることで扁桃体を鍛えられることを知り、実践。結果、不安を感じる回数が少しずつ減っていったと報告してくれました。
こうした子どもたちの実践から、「問いをもつ」という行為は、新しいことを知ったり、できるようになったりするだけでなく、苦手を克服したり、目の前の壁を自分の力で乗り越えたりするための強い力にもなるのだと、私は改めて学ぶことができました。
今、学校現場では業務が増え、地域の教育素材を探したり、自ら教材開発を行ったりする時間や余裕がないという声もよく耳にします。元教員だからこそ見える「学校のリアル」と、外からだからこそ見える「新しい視点」。その両方を活かして、学校外に広がる「学びの土壌」を、支えていければと思っています。
マナビノキの理念は、「知りたい!やりたい!のタネをマナビノキに育てよう」。
好きなことや得意なことだけでなく、苦手や不安すらも「問い」に変え、学びにしていく力を育てたい。問い続けることの積み重ねによって、人は、強く、しなやかに、そして「自分らしく」育っていく―私はそう信じています。
「今」に満足しながらも、「今」を問い続ける。
そんな感覚を大切に、これからも日々、子どもたちと一緒に学び続けていきたいです。