Vol.144自分も他の人も気持ちよく

2022.06
東京都の公立小中学校に設置されている特別支援教室は「通級による指導」の形態の一つです。通常の学級に在籍する発達障害等のある児童・生徒を対象として一週間のうちの数時間、児童・生徒が抱える学習上又は生活上の困難さに対応した特別の指導を行います。 「通う目的が児童ごとに異なる」ことが特別支援教室の特徴です。つまり毎回の授業においても児童によって目標が異なるということです。私が所属する小学校の特別支援教室の授業では個々の目標が掲示され、いつでも見えるようになっています。児童は自分の目標を意識しながら授業に参加できると同時に友達の目標も理解できます。 ある授業を例に挙げます。円の中に入り、転がってきたボールに当たったら円の外へ出るというルールの「ころがし中あて」を行います。それぞれの目標が「悩んだら相談する」のAさん、「話を最後まで聞く」のBさん、「自分で気持ちを切り替える」のCさんが参加します。 Aさんは「先生が転がすボールが怖いから活動の様子を一度見たい」と教員に相談できたことで目標を一つ達成しました。Bさんは活動の説明を最後まで聞くことができ、ルールを理解して参加しました。これも目標達成の場面です。Cさんはボールに当たったことで感情が高ぶり、教員とともに別室で時間をかけて落ち着きました。Cさんは感情が高ぶったときに自分だけで落ち着くことができる方法を引き続き学び、練習していく必要があります。 このような活動展開であったとしても他の児童がCさんに対して冷たい態度をとることはありません。なぜなら「自分も他の人も気持ちよく」が教室の合言葉であり、規準であるからです。AさんもBさんも、Cさんに対して否定的な発言や態度をとることは相手が気持ちよくないということを理解しています。いい意味で「そっとしておいてもらえた」Cさんは安心して自分の目標に向かい、また挑戦をするでしょう。 人数の規模が異なりますが通常の学級でも「自分も他の人も気持ちよく」を合言葉にすることができるのではないでしょうか。「自分が我慢しすぎて苦しければ助けを求めていい」、「周囲にマイナスの影響があることはやめよう」、「友達が喜ぶことはやってみよう」、「先生に指導を受けて周囲に迷惑をかけていた自分に気付いた」。このような思考が児童の頭の中をたくさんよぎるようになったとき、互いの多様さを認め合え、どの子も安心して学べる環境が自然とできあがっているはずです。
東京都八王子市立上柚木小学校
三上泰弘