「学校に通っているから算数を学ぶんだよ。」
子どもがそのような社会性に根ざした学習意欲をもつことは悪いことではありません。しかし、1時間1時間の授業がこのような子どもの気持ちを頼りに進むのでは、子どもの学習意欲は疲弊してしまいます。本稿では、子どもの「知りたい」「分かりたい」というような欲求や興味・関心に根ざした算数の授業を紹介します。
2年生の2月、クラスで冬の野鳥に興味をもって生活科の学習を進めていた頃に、この写真の野鳥に出会いました。すぐに子ども達は「あの鳥は?」となりました。
翌日、写真を見ながら野鳥の種類が何かを話し合いました。図鑑の図や記述と照らし合わせて、「“モズ”よりも“ジョウビタキ”のようだけど、全長に大きな違いがある」という意見が出されました。図鑑にはジョウビタキの全長は14cmと載っていますが、一人の子どもは「横を飛んでいたとき、どう見ても20cmはあったよ」と言うのです。「見た鳥の全長が分かればいいのに」となりました。この野鳥の全長が測れれば、出会った野鳥の種類が特定できるのです。
しかし、野鳥はもう目の前にはいません(いたところで全長を測れるとも思いませんが・・・)。写真を見ながら口惜しい雰囲気の中、一人の子どもが「網の長さを測れば、その鳥の大きさが分かる」と言うのです。つまり、網の縦の長さと野鳥の全長が写真では同じ長さだから、網の縦の長さを測れば良いということです。
さっそく写真に写った網の長さを測りに行きました。上下のパイプを含めて測る子ども、パイプを省いて測る子ども、一段下の長さの違う網の縦を測る子ども、網と物差しの間に握りこぶしを挟んで正確に長さを測っていない子ども・・・、子ども達は各々違う対象を測っていたり、正しく物差しを使えていなかったりしました。「測る対象はパイプを含めた一番上の列の縦の長さ」と約束し、物差しの正しい使い方を意識して測ると、11cmくらいと結論を得ました。写真には野鳥は斜めに写っているので、11cmより少し長い全長であると分かりました。子ども達の目の前に現れ去っていった、写真の野鳥は“ジョウビタキ”であったことが分かりました。
“ジョウビタキ”と答えを得るまでに、直接測れない物に対応している物を設定することや、測定する対象を特定すること、状況に応じた正しい物差しの使い方を扱った授業になりました。
子どもが「知りたい」と思ったことに算数が役立つ経験を子ども達に少しでも多く積ませたいと思っています。