2018年度に小学校で、2019年度に中学校で道徳が「特別の教科 道徳」という新たな位置づけで設けられました。「特別の教科 道徳」は、道徳的な価値を自分のこととしてとらえ、よく考え、議論する道徳へと転換し、特定の考え方に無批判で従うような子どもではなく、主体的に考え未来を切り拓く子どもを育てようと考えられ、教科化されました。
多様性を認め合う共生社会に向けて、子どもの心を豊かに育むためには、1人1人の意見が尊重され、その考えから学び自分の考えを深めていくための指導の工夫が必要だと考えます。そこで、「中断読み」という手法を生かした、1人1人の考えたことが生かされる道徳科の授業作りについて考えていきたいと思います。
宮澤(2018)が中断読みによって、多様性の尊重につながる実践を示しています。私は、「手品師」を教材に取り上げ、子どもの出した答えをより価値項目として認めていくことを加え、その手法を実践しました。(表1)子どもは、当初「男の子を連れて大劇場に行く」という合理的かつ誠実な判断をする意見が大半でした。ここで本文から条件を確認し、あえて大劇場か男の子のどちらかを選ぶ場面で理由とともに考えてもらいました。
男の子側を選んだ子どもの理由は、「約束だから」「男の子がかわいそう」「自分の力で夢をかなえたい」と他者への誠実さ・思いやり・強い意志の価値項目に触れる内容を考えていました。大劇場を選んだ子どもの理由は「自分の夢だから」「チャンスだから」と自分への誠実さや強い意志による理由でした。価値項目を広く深く捉えるために以下3点を意識して議論し、その後、教科書の結論を示さずに個々で話の続きを考えます。
「手品師」では、1つの価値項目からくる行動だけに焦点を絞らないことによって、多様な考えや価値が生まれやすくなります。また多様な価値をみんなで共有することで考えが広がり、互いの考え方を知る価値を感じます。そしてその中で誠実さについて深く考えることができます。中断読みによる「考え議論する道徳」の授業が、多様な価値を認めていくクラス作りのきっかけになればと思います。