2014年、ベネッセ教育総合研究所は全国の小学4年生~中学2年生の子どもとその保護者5,409組を対象に、『小中学生の学びに関する実態調査』1を実施しました。そこで「勉強が好きかどうか(学校段階別)」という質問対し、「とても好き」「まあ好き」と回答した小学生は62%、中学生は37.6%。「あまり好きではない」「まったく好きではない」と回答した小学生は29.6%、中学生は48.5%でした。この調査から、小学生から中学生になると、勉強嫌いが増えることがわかります。
認知心理学者Daniel T. Willinghamは「人間は生まれながら好奇心が強い生き物だが、もともと考えることが得意なわけではない。」2と述べています。さらにイアン・レズリーは人間の好奇心について、「個性でなく状態である(中略)つまり好奇心は環境によって大きく左右されるということだ。」3と述べています。学びや勉強の第一歩である好奇心は、その子の個性ではなく、その子がどのような環境で過ごし、どのような状態にあるかによって決まるということです。
なぜ日本では勉強嫌いの子どもが減らないのでしょうか。答えは「好奇心には秩序がないのだ。一般的に、秩序を何よりも重んじる社会では、好奇心は抑圧される。」3からです。日本の学校は秩序を重んじ、社会の秩序を教える場所とも言えます。始まりや終わりの礼、給食指導、制服、学級委員、内申など挙げればキリがありません。「日本の学校」という環境が子どもたちの好奇心を抑圧してしまっている可能性が大きいのです。では、このような環境下で、教師が学び好きの子どもを育てるには、どのような働きかけが効果的なのでしょうか。
第一に、学びを振り返る習慣をつける指導を行うことです。学校現場ではその重要性は既に周知されていますが、認知心理学でも、特定の刺激に繰り返し何度も接触するだけで、刺激への親近性が高まり、好意が増加する「単純接触効果」が報告されています(Zajonc, 1968)4。さらに下條らは視線と選好の関係を実験的に調べ、「好きだから見る」だけでなく「見るから好きになる」ことを証明しました。苦手意識を持っている対象でも、何度も振り返り、反復することで好きになる可能性を秘めています。
第二に、「簡単ではないが解けそうな問題」2を用意することです。心理学者のトッド・カシュダンが「不安がない状況というのは、退屈で刺激のない状態でしかない。心が完全に冬眠モードになり、現在の活動から注意力、やる気、エネルギーが抜け落ちてしまう。」5と表現するように、自信が全くなく、不安感が大きいときは好奇心が働かなくなってしまいます。一方で、自信過剰も好奇心を損なってしまいます。成長しているという喜びを感じられるような、絶妙な不確実性のある課題が、子どもの好奇心をくすぐるのです。
第三に、必要な基本的情報や十分な背景知識を与えることです。これらが無ければたとえ興味が湧いても、自分には向いていないと思い、投げ出してしまいます。3知識こそが、気まぐれな好奇心(拡散的好奇心)を持続的な好奇心(知的好奇心)へと発展させる力なのです。